桜桃 – さくらんぼ – cherry
桜桃(さくらんぼ)の特徴
季節を感じる果物も少なくなって来ましたが、さくらんぼは6~7月の限られた時季にしか出まわらない季節感あふれる果実です。透きとおるようにきらきら輝くかわいい姿はしばしば宝石に例えられ「赤い宝石」「初夏のルビー」などと呼ばれたりします。
「さくらんぼ」という呼び名は、「桜桃(おうとう)」の愛称です。正式な名称は「西洋実桜(せいようみざくら)」と言います。「桜坊」「さくらんぼう」とも呼ばれます。
日本では、東北地方、北海道、長野県などが主な産地です。中でも最も収穫量の多いのは山形県で、日本の生産量全体の7割以上を占めます。
4月頃白い花を咲かせ、6~7月に黄赤色や濃赤色の小さな実をつけます。旬が限られている季節色豊かな果物です。
さくらんぼは中心にかたい種があるため、あんずやももなどとともに「ストーンフルーツ」と呼ばれます。これらの果実はみんなバラ科の親戚です。
桜桃(さくらんぼ)の旬
さくらんぼは保存がきかないので、旬がはっきりしている果実です。
国産品は6~7月上旬頃にかけて出回ります。品種によって収穫時期が異なります。各品種の出回り時期は「さくらんぼの種類」の項を参考にしてください。
輸入ものは5~8月にかけて、主に「アメリカンチェリー」の名で出回ります。
栽培に手間がかかるのでどうしても高値になり、5月の初夏の頃には一粒数千円の初値がついて、しばしばニュースで取り上げられます。底値は6月中旬~下旬にかけてと言われているので、食べる時期をのがさないようにしてください。
桜桃(さくらんぼ)の種類
さくらんぼの品種は全世界で1000種を超えると言われています。
大きくは、
(1)甘果桜桃(かんかおうとう)または西洋実桜(せいようみざくら)
(2)酸果桜桃(さんかおうとう)または西洋酸実桜(せいようすみのみざくら)
(3)中国桜桃または支那実桜(しなのみざくら)
の3系統に分けられます。このうち、日本で栽培されているのはほとんどが甘果桜桃です。酸果桜桃はほとんど加工用に用いられます。
現在日本で経済栽培されている品種は約30種類ぐらいだそうです。
桜桃(さくらんぼ)の品種
佐藤錦(さとうにしき)
1912年に「ナポレオン」と「黄玉」が交雑して生まれたと考えられる日本生まれの品種です。6月中旬から下旬にかけて熟します。形は短心臓形で大きさは中くらい、果皮の色は黄色地に鮮やかな紅色で「赤いルビー」と呼ばれています。果肉は乳白色で、果肉、果汁ともに多くて甘みと酸味の調和がすばらしく、品質は国内最高級です。1990年頃から「ナポレオン」をしのいで生産量も1位となり、今では名実ともに日本のさくらんぼの代表品種となっています。名前は育成者の佐藤栄助氏にちなんだものです。
ナポレオン
(別名)ナポレオン・ビガロ(Napoleon Bigarreau)、ロイヤル・アン(Royal Ann)
日本には1872年にアメリカから導入されました。起源は不明ですが栽培歴は長く、18世紀始めからヨーロッパ諸国で栽培されているという古い品種です。晩生種で、6月下旬~7月上旬頃熟します。長めの心臓形の大粒で、果皮は黄色に赤い斑を帯びています。果肉はややかたく淡い黄色、酸味はやや強いですが、完熟したものは甘くて濃厚な味です。生食にも加工にも向きます。品種名は、ナポレオンの没後の1821年にベルギー王がナポレオンにちなんで命名したそうです。明治時代の日本では「那翁」と呼ばれていました。
高砂(たかさご)
(別名)ロックポート・ビガロ(Rockport Bigarreau)、伊達錦
1872年にアメリカから導入された品種です。6月中旬頃に熟します。形は短心臓形、果皮は黄色地に赤みを帯びており、果肉は乳白色です。甘みは中くらいでやや酸味が強いのですが、食味は良好です。核が大きく、果実がやわらかいので輸送中に傷みやすいのが欠点です。
南陽(なんよう)
1957年、山形県農業試験場で、ナポレオンが自然交雑したものから選抜して育成した品種です。6月下旬頃、「佐藤錦」と「ナポレオン」の合間に収穫されます。形は短心臓形の大粒、果皮は淡紅色、果肉は黄白色でややかためです。酸味が少なく、とてもあっさりとした食味は極めて良好で、「さくらんぼの王様」と呼ばれることもあるほど高級な品種です。
黄玉(きだま)
アメリカ原産で1872年に日本に導入されました。果皮は黄色地に赤斑があり、果肉は乳白色、多汁でやわらかくて甘みが強い良品種です。現在は交配種として残されるのみで市場には出回りません。
紅さやか
1979年に「佐藤錦」と「セネカ」の交雑によって育成した品種で、1991年に品種登録された新しい品種です。収穫が早く、6月上旬~中旬頃には収穫されます。形は短心臓形の小粒で、果皮は朱紅色を帯び、果肉は赤い色をしています。糖度は高いのですが、酸味もあり、果汁も多くて食味はなかなか良好です。
桜頂錦(おうちょうにしき)
「佐藤錦」や「ナポレオン」などの混植園で偶然できた品種で、1988年に登録されました。6月上旬~中旬頃に収穫されます。形は心臓形で、果皮は黄色地に赤い斑を帯びています。果肉色乳白色、ほどよい甘さで酸味は少なく、果汁も多くて食味はすぐれています。
高陽錦(こうようにしき)
「ナポレオン」「佐藤錦」等の混植園で偶然発見された品種で、1989年に登録されました。7月上旬頃に収穫されます。短心臓形で大粒です。果皮は黄色地に赤い斑を帯びています。果肉は乳白色で固く、甘味・酸味ともに多くて濃厚な味です。
大将錦(たいしょうにしき)
「ナポレオン」「佐藤錦」等の混植園で偶然発見された品種で、1990年に登録されました。7月上旬~中旬頃に収穫されます。短心臓形で大粒です。果皮は黄色地に赤い斑を帯びています。果肉は乳白色で極めて固く、甘味が多くて酸味は少なめです。
紅秀峰(べにしゅうほう)
山形県園芸試験場で「佐藤錦」と「天香錦」を交配して育成された品種で、1991年に登録されました。6月中旬~7月上旬にかけて収穫・出荷されます。形は横に張った短心臓形で比較的大粒です。果皮は黄色地に赤い斑を帯びています。果肉は黄白色で固く、甘味が多くて酸味は少なめです。
月山錦(がっさんにしき)
赤色系の品種がほとんどの中、黄色いさくらんぼとして貴重な品種です。非常に大粒の心臓形で、果皮は明るい黄色です。甘味が非常に高く、酸味は少なくて食味が良好です。栽培が難しく、一本の木からの収量も少ないために貴重な高級品種となっています。
アメリカンチェリー
「ビング」「ジャブレー」「レーニア」などのアメリカ産さくらんぼの総称です。日本では5~8月頃に出まわります。国産品よりひと回り大きくて濃紅色の外見と、強い甘みが特徴です。主産地はアメリカ西海岸カリフォルニアと東海岸のワシントン州ですが、最近はニュージーランドからの輸入品もふえています。
桜桃(さくらんぼ)の加工品
ジャムや果実酒のほか、シロップ缶詰、ドライチェリー、酢漬け(サワーチェリー)などに加工されます。
ドレンチェリー
さくらんぼの砂糖漬けの一種です。果実を一度漂白して赤く着色し、糖液に漬けこみます。緑色や黄色のものもあります。製菓材料として使われ、細かく刻んでフルーツケーキやクッキー、アイスクリームなどにまぜたり、ケーキなどの飾りにします。
キルシュワッサー(キルシュ)
さくらんぼを種ごとつぶして発酵、蒸留して造る無色透明のブランデーです。キルシュはドイツ語でさくらんぼを意味します。良いものは食前酒にするほか、主にリキュールの原料や製菓材料として使われます。
桜桃(さくらんぼ)の選び方
果皮に光沢があって張りがあるもの、果柄が青く新しいものが新鮮です。
果皮が黒ずんでいたり、褐色の斑点があるものは避けてください。
輸送中に傷みやすいので、きずがないかよくチェックしましょう。
完全に熟しているものが甘いです。白っぽいものはまだ熟していないので、色つやが良く、色の濃いものが良いでしょう。
アメリカンチェリーは熟すと黒ずんだ色になります。鮮やかな色のものはさけてください。
桜桃(さくらんぼ)の調理法
日もちはしませんので、買ってきたらなるべく早く食べるようにします。
よく冷やして食べると、酸味がおさえられて甘みが引き立ちます。但し、あまり長く冷蔵庫に入れておくと甘みが飛んでしまいますので、せいぜい一晩ぐらいにしておきます。
さくらんぼの洗い方
- 国産のものは、実に直接農薬をかけることがないので、ボウルに水を張り、ざるに入れたさくらんぼをざるごとゆらし洗いするだけでOKです。あまり水につけすぎると旨みが失われます。
- アメリカンチェリーは残留農薬が心配なので、表面を水でやさしく洗ってください。
生食以外の調理法
- フランベなどにして、ケーキやアイスクリーム、ババロアなどの菓子の飾りにします。
- ジャムやコンポートなどにします。
- ピュレにしてアイスクリームにしたり、ソースにします。
- ブランデー漬けにして菓子などの材料にします。
桜桃(さくらんぼ)の保存法
鮮度が落ちやすく、日もちしないので、なるべく早く食べるようにします。
新鮮なものは、およそ常温で3日間が限度です。
冷蔵庫に入れる場合は、ラップをかけて水分の蒸発を防ぎます。あまり長く冷蔵庫に入れておくと甘みが飛んでしまいますので、一晩ぐらいにしておきましょう。
さくらんぼ酒の作り方
一度にたくさんのさくらんぼが手に入ったときはさくらんぼ酒を作ってみませんか。
おいしい上に、疲労回復などの薬用酒としての効果も期待できます。
【材料】
- さくらんぼ1kgに対し、ホワイトリカー1.8リットル、氷砂糖150g~200g
【手順】
- びんは熱湯で洗い、完全に乾かしておきます。
- さくらんぼを水であらって、きれいな布で水分をよくふきとります。
- さくらんぼと氷砂糖を交互にびんに入れていき、上からホワイトリカーを注ぎこみます。
- 冷暗所に置いて、砂糖がよく溶けるように時々びんをゆらしてください。3~6ヶ月後には飲めるようになります。
桜桃(さくらんぼ)の栄養・効能
主成分はブドウ糖などの糖質ですが、カリウム、鉄、リンなどのミネラル成分や、カロチン、ビタミンB1、B2、Cなども少しずつ含まれています。また、酸味は、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、コハク酸などの有機酸です。アメリカンチェリーの赤い色はポリフェノールの一種アントシアニンなどの色素です。
国産ものとアメリカンチェリーを比べると、一般的にビタミン類は国産もの、カロリーやミネラルはアメリカ産のものがうわまっています。
疲労回復に
ミネラルやビタミン成分の量は多くありませんが、バランスよく含んでいるので、疲労回復や食欲増進、血行促進、美肌、疲れ目などに効果があります。
虫歯の予防
最近のアメリカの研究で、アメリカンチェリーのジュースには、歯垢の形成を阻害して虫歯を予防する成分が含まれている、と報告されています。
高血圧予防、利尿効果
果実としてはカリウムを比較的多く含みます。カリウムには体内のナトリウムを対外に排出するはたらきがあり、高血圧の予防になるほか、利尿作用も期待できます。
桜桃(さくらんぼ)の民間療法
虚弱体質に
さくらんぼ酒を作り、毎日寝る前にさかずき1杯飲むと効果があります。
腎臓病に
さくらんぼの柄には、実よりも利尿作用を促進する成分が多く含まれており、煎じて飲むと腎臓病に効果があることが知られています。また、この煎じ汁は、回虫駆除にも効果があります。
痛風に
アメリカの民間両方では、さくらんぼが痛風に効果があるといわれています。
桜桃(さくらんぼ)の歴史・由来
原産地は系統によって異なり、甘果桜桃はアジア西部から南西にかけて、酸果桜桃は東南アジア、中国桜桃は中国であるとされています。
栽培の歴史は以外に古く、ヨーロッパでは紀元前から栽培されていました。また中国では、五経の一つである「礼記」に記述があることから、3000年前には既に栽培されていたことがうかがえます。
日本には江戸時代初期に中国から入ってきましたが、気候に合わず普及しませんでした。
現在のさくらんぼのもとになった甘果桜桃が日本に伝わったのは1872~1875年で、アメリカやフランスから導入されました。それらの苗木が適地である北海道や東北に配布され、日本でも独自の品種改良が進められるようになっていったのです。
桜桃(さくらんぼ)の豆知識
「さくらんぼ」「おうとう」「チェリー」の呼び名について
一般的には、木は「おうとう」、実は「さくらんぼ」、加工されると「チェリー」と使われることが多いようです。学術分野では、木も実も「おうとう(桜桃)」と呼び、「さくらんぼ」とは呼びません。「さくらんぼ」とは収穫された果実が商品化されたもの、「チェリー」は加工品や輸入品の呼称に多く用いられます。なお、辞書では「さくらんぼ」に「桜ん坊」という字が当てられています。小さくかわいい果実にふさわしい呼び名ですね。
どうしてさくらんぼは高価なの?
さくらんぼは季節感を伝えてくれる高級果物というイメージがありますね。「もう少し安くなったら食べよう」と思っているうちに、シーズンが終わってしまって食べれなかったという人も多いのでは?さて、さくらんぼはなぜ高価なのでしょうか。その答えは簡単で、大変栽培の手間がかかる果実だからなのです。遅霜に合わないように温度管理に気をつかったり、受粉をみつばちや人の手で行ったり、成熟期に雨にあわないように雨よけのテントを立てたり、虫や鳥の害を防いだり。収穫もまた大変です。桜桃の木は高くなるので、一本あたり5,000個から10,000個もの収穫を、全て昇降機やはしごを使って人の手で行います。一つ一つ色づきを確認しながら、そっともぎ取っていくのです。また実るときには一斉に実るので、作業要員を確保するのも大変だそうです。こうして手間暇かけて収穫したさくらんぼはまさに「箱入り娘」そのもの、というわけで高価なものになってしまうのです。
太宰治と桜桃
桜桃(おうとう)と言えば、太宰治を偲ぶ会「桜桃忌」を連想するする人もいるでしょうか。太宰治は昭和23年(1948年)に玉川上水に入水自殺し、奇しくも太宰39歳の誕生日である6月19日に遺体が発見されました。その日を「桜桃忌」と名付けて、毎年三鷹市の禅林寺で太宰治偲ぶ会がもたれ、多くの人が墓前に桜桃の首飾りを供えます。
「桜桃」は死の直前の作品の題名であり、この季節に北国に実る宝石のような赤い果実が、鮮烈な太宰の生涯に最もふさわしいとして、太宰と同郷の津軽の作家、今官一によって名付けられたとのことです。
「子供より親が大事、と思いたい。子供よりも、その親のほうが弱いのだ。桜桃が出た。私の家では、子供たちにぜいたくなものを食べさせない。子供たちは、桜桃など、見た事も無いかも知れない。食べさせたら、よろこぶだろう。父が持って帰ったら、よろこぶだろう。蔓を糸でつないで、首にかけると、桜桃は珊瑚の首飾のように見えるだろう。しかし、父は、大皿に盛られた桜桃を、極めてまずそうに食べては種を吐き、食べては種を吐き、食べては種を吐き、そうして心の中で虚勢みたいに呟く言葉は、子供よりも親が大事。」~太宰治「桜桃」より引用
さくらんぼの日
6月の第3日曜日を山形県経済連では「さくらんぼの日」に制定しています。また、1990年3月に、さくらんぼの一大産地である山形県寒河江市が「日本一のさくらんぼの里」をPRするために6月20日を「サクランボの日」と制定しました。同市では、毎年さくらんぼの種とばし大会などの行事が行われます。
山形県のシンボル
昭和57年3月31日に山形県の「県の木」に指定され、県民に親しまれています。