梨 – なし – pear

梨の特徴

日本生まれの果実

梨属は世界に20種類ぐらいありますが、日本梨、中国梨、西洋梨の3種類に大別できます。日本で梨と言えば日本梨のことで和梨ともいいます。

日本で食べられる果物はほとんどが外国生まれのものですが、みずみずしくておいしい日本梨は生粋の日本生まれの果物です。

「ナシ」という語は「無し」につながるので忌み嫌われ、昔から「有りの実」と呼ばれて親しまれてきました。

日本梨はシャリッとした歯ざわりが特徴的で、中国梨とともに「サンドペアー」と呼ばれます。一方の西洋梨は濃厚な香りとねっとりとした食感が特徴で「バターペアー」と呼ばれます。

梨の旬

日本梨の出まわり時期は「新水」が最も早く7月下旬~8月中旬頃に出回ります。次いで「幸水」が8月中旬~下旬にかけて、「豊水」「長十郎」は8月下旬~9月中旬に出荷されます。「二十世紀」は、鳥取産が8月下旬~9月中旬、長野産が9月下旬~10月中旬に出回ります。

西洋梨は9~11月が中心で、「バートレット」は8月下旬~年内まで出まわります。最もおいしいと言われる「ラ・フランス」は10月下旬~11月まで。

出まわり量は少ないのですが、中国梨は10月頃に出荷されます。

梨の種類・品種

日本梨

二十世紀、廿世紀(にじっせいき)

千葉県松戸市で発見された偶発実生で、青梨系の代表品種です。「二十世紀」とう名前は、1898年(明治31)に、新しく迎える20世紀を代表する果実になるようにと命名されました。整った球形で大きさは中程度、果皮につやがあります。果肉はやわらかく多汁で、甘みと酸味のバランスがよい良品質です。主用産地は鳥取県と長野県で、両県で全国生産量の80%を占めます。鳥取産は8月下旬~9月中旬、長野産は9月下旬~10月中旬に出回ります。日保ちもよく、収穫後2週間ぐらいは品質に変化がありません。

幸水(こうすい)

農林省園芸試験所(現、果樹試験所)で「早生幸造」と「菊水」とを交配して育成された赤梨系品種で、1959年(昭和34)に発表されました。「新水」「豊水」と合せて「三水」と呼ばれています。大きさは中程度で、扁平形のお尻が大きくへこんでいるのが特徴です。みずみずしくてさわやかな甘みがある良品質で、今後ますます伸びる品種と期待されています。8月中旬~下旬が出荷のピークで、日持ちは1週間くらいと短めです。

豊水(ほうすい)

農林省園芸試験所(現、果樹試験所)で「りの14」と「八雲」とを交配して育成された赤梨系品種で、1972年(昭和47)に発表されました。扁球形で大きく、肉質がやわらかくて甘みと酸味のバランスがよく、果汁の多い良品質です。出まわり時期は8月下旬~9月中旬前後で、三水の中ではいちばん最後に出回ります。2週間ほど日保ちします。

新水(しんすい)

農林省園芸試験所(現、果樹試験所)で「君塚早生」と「菊水」とを交配して育成された赤梨系品種で、1965年(昭和40)に登録されました。三水の中ではトップバッターとして7月下旬頃から8月中旬にかけて出回ります。やや小ぶりですが、甘みの中にほどよく酸味が感じられ、濃厚な味がします。日持ちはあまりよくなく、1週間ぐらいで味が落ち、芯の部分は渇変しやすいのが欠点です。

長十郎(ちょうじゅうろう)

1895年(明治28)頃、神奈川県川崎大師近くの当麻長十郎氏の梨園で偶発実生として発見されました。やや扁球形で中型、多汁でしっかりした甘みがあり、かつては赤梨系の代表種でした。千葉県、茨城県、埼玉県などの関東地方がおもな生産地で、8月下旬~9月下旬ごろに出荷されますが、肉質が固く貯蔵性もあまりよくないことから、最近は幸水、豊水などにおされています。

新高(にいたか)

1927年(昭和2)に発表された赤梨系の品種で、450~500g、ときには1kgにもなる大型種です。肉質はやわらかく、みずみずしくて特有の芳香があります。日持ちはよい方で、9月上~中旬にかけて収穫されます。

晩三吉(おくさんきち)

新潟県生まれの晩成品種で、10月下旬から11月上旬頃にかけて収穫されます。貯蔵性に優れ、収穫してから翌年の春ごろまで貯蔵できるので「貯蔵なし」とも呼ばれています。大果で酸味が強く甘みは少なめで、さくさくとした食感があります。

愛宕

11月下旬~12月下旬ごろ出回る高価な贈答用品種です。実が巨大で、重さが1.5kgくらいにもなります。

西洋梨

パートレット 別名:ウイリアムズ

イギリス生まれで日本へは1868年(明治1)に導入されました。世界で一番栽培されている品種で、缶詰の西洋梨はほとんどがこれを使用しています。生食にも適していて、日本の店頭にもよく並んでいます。形は典型的な洋梨形、やや小ぶりで特有の香りがあります。果皮は光沢があり、淡い緑色をしていますが、10~15日間追熟すると黄色くなります。肉質はやわらかく、西洋梨にしては多少ざらっとした食感がありますが、ほどよい甘さと酸味が味わえる良品質です。日本でのおもな産地は東北地方で、8月下旬から9月上旬にかけて収穫されます。

イギリス南部のバークシャー州の学校長であったステア氏が野生梨の中から発見したもので、当初は「ウィリアムズ・ボン・クレティン」の名で知られていましたが、アメリカ・マサチューセッツ州のバートレット氏が、彼自身の名前を付けて出すようになったことから、以後アメリカでは広くバートレットとして知られるようになったそうです。

マックスレッド・バートレット

バートレットの1変種で、9月上旬から中旬にかけて収穫されます。名前の通り果皮が赤みを帯びています。

ラ・フランス

フランス原産で、日本へは1903年(明治36)に入ってきました。「フランスを代表するにふさわしいフルーツ」という意味でこの名がついたそうです。西洋梨の中では最も小ぶりで、見かけもでこぼことふぞろいですが、風味が良く、果肉は柔らかく果汁もたっぷりで、品質は洋梨のなかでも最高とされています。果皮はやや黄色実を帯びた緑色で、褐色の斑点が見られます。追熟期間は約20日で、肩のあたりが耳たぶぐらいにやわらかくなり、とろけるような甘さが増していきます。産地は山形県が圧倒的に多く、ついで秋田県などで作られ、10月前後に収穫され、追熟されて11~12月に多く出まわります。

ウインターネリス

19世紀初頭に、ベルギーでジャン・シャルル・ネリス氏が育生した品種で、イギリスに「ラ・ボン・マリンワーズ」という名で導入されましたが、その後育成者に敬意を表して「ウィンターネリス」と改名されました。枝の方がとがった小型の球形で、表面はさびが多く緑色をしています。肉質はややあらいですが、甘みが多く酸味は少なくて良品質です。晩生種で長期保存ができ、翌年春先まで出回ります。

プレコース

大型で果皮は黄緑色をしています。早生品種で8月中旬から下旬に多く出回ります。

ル・レクチェ

フランス産の品種で、日本には1903年(明治36)新潟県に導入されました。果肉は緻密で多汁であり、糖度も高く、食感はラ・フランス以上と言われています。栽培が少なく、贈答用として高価に扱われています

中国梨

鴨梨(ヤーリー)

中国梨の代表品種。日本へは明治初頭に導入されました。果皮は緑色で、熟すと黄色になります。香水のような芳香があり、多汁でやわらかい肉質ですが、甘みは少ないく淡白な味です。10月上中旬に収穫されますが、貯蔵がきき、3月頃まで出まわります。年末には贈答品としても店先に並びます。

慈梨(ツーリー)

中国山東省で多く栽培され、日本へは1912年(大正1)に導入されました。卵型の大型種で、初め黄緑色ですが、貯蔵すると黄金色になります。果肉は緻密で多汁、甘くて香りが良い良品種です。

紅梨(ホンリー)

中国河北省・遼寧省で多く栽培されています。球形もしくは長球形で、果皮は淡い黄緑色に紅い斑点が入り、外観の美しさが珍重されています。多汁ですが、あらい肉質で、味はやや劣ります。10月上中旬に収穫されますが、貯蔵性が高く、翌年にかけて出まわります。

梨の選び方

日本梨

表面に傷がなく、ややざらつきがあって張りと重量感があるものが良質です。

皮の色つやが良く、固いものを選びましょう。触ってやわらかいものは古いものです。赤みの強い赤梨や黄ばんだ青梨は、ともに熟れすぎの可能性があるので避けた方がいいでしょう。

色にむらがあったり少し傷があるものは無袋栽培されたもので、太陽の光をいっぱいに浴びて育っている証拠なので甘さも増しています。袋をかけて栽培されたものは、色むらが無く表面もきれいですが甘みでは劣ります。

洋梨

傷が無くてみずみずしくずっしりと重いものを選びましょう。

梨のおいしい食べ方

日本梨

梨は皮と実のあいだに渋みがあります。皮をむくときには少し厚めにむいたほうが甘くておいしく食べられます。

種のまわりはクエン酸が多く酸味が強いので、大きめに取り除いたほうが甘く食べれます。

皮をむいてからしばらくすると、成分のタンニンが酸化して茶色く変色してきますが、さっと塩水に通しておくと変色を防げます。

生食のほかは、サラダや白あえなどにして食べてもおいしいです。

洋梨

洋梨は、収穫して10~20日ぐらいのあいだ、食べごろのやわらかさになるまでおいておくこと(追熟)によっておいしくなります。

冷蔵庫や低目の室温で果皮を傷めないように置いておき、全体的に黄色みを帯び、底部がやわらかく、香りが強くなってきたころが食べごろです。1~2時間冷蔵庫で冷やして食べると良いでしょう。

生食のほか、シロップ煮、シャーベット、タルト、ジャム、果実酒などに調理してもおいしいです。

梨の保存

日本梨

低温で風通しのよい場所に置くか、ポリ袋などで密封して冷蔵庫の野菜室で保存すると良いでしょう。表面に傷がつかないように注意してください。比較的日もちが良い果実ですが、みずみずしさを失わないうちに食べるようにしましょう。

常温のままで置いておくと、追熟して次第に黄色くなり、日もちが悪くなるので、なるべく青いうちに冷蔵庫で保存するようにしましょう。

洋梨

低温で風通しのよい場所に置くか、冷蔵庫の野菜室に入れて、追熟させます。食べごろを逃さないように。

洋梨は、追熟後、生のままでも冷凍可能です。コンポートにして冷凍するのも良いでしょう。約1ヶ月は保存できます。

梨の栄養・効能

主成分

果肉の90%近くを水分が占めていて、そのうちショ糖や果糖などの糖質が10~15%も含まれ、甘みが強いのが特徴です。そのほかごく少量ですがリンゴ酸、クエン酸を含み、さわやかな酸味が味わえます。ビタミンは、B1、B2、Cなどがありますが、いずれもごく少量です。

糖分の含有量は洋梨が一番多く、中国梨、日本梨と続きます。

利尿効果

カリウムの含有量が比較的多く、さらにアンモニアを体外に排出する作用のあるアスパラギン酸を含むため、利尿作用や体内の代謝を整えるはたらきが期待できます。

肉料理の消化促進に

生の梨にはたんぱく質分解酵素が含まれるので、肉料理の後のデザートに食べると効果があります。焼肉のタレによく加えられるのもこのためです。また、すりおろしたものを肉にまぶしておくと肉がやわらかくなります。

水分補給や解熱に

水分が豊富な上、解熱作用があるので、風邪で発熱しているときの水分補給元にうってつけです。

但し、体を冷やすので、妊婦や冷え性の人にはよくありません。また、食べすぎると胃腸をこわすので注意が必要です。

のどの調子を整える

日本梨にはサポニンという物質が含まれるのではないかと考えられており、のどや肺を潤して炎症をやわらげる作用があります。風邪や扁桃炎などでのどが痛むとき、せきが出るとき、痰(たん)がからむときなどに効果のある食材です。

せきや痰がひどいときには、日本梨をジューサーにかけて氷砂糖や蜂蜜を加え、弱火で煮詰めます。この煮汁を一日に数回飲むとせきや痰がやわらぎ、のどの痛みが楽になります。便秘の解消などにも効果があるので、デザート感覚で毎日食べるようにするといいでしょう。

二日酔いに

日本梨には酒の酔いを醒ます効果があり、飲酒後ののどの渇きにも良いので、お酒を飲んだときにはお勧めです。

日本梨と蓮根(れんこん)を等量ジューサーにかけて搾った「蓮梨汁(リェンリージー)」は二日酔いに効くとされる薬膳です。蓮根と梨はともに寒性の食物として体内の熱を外に出す効果があり、これが二日酔いに効果があるとされます。節のある蓮根と皮と芯をとった梨を同量ジューサーにかけ、できた搾り汁を一気に飲み干すようにするとすっきりします。

疲労回復に

梨に含まれるアスパラギン酸は、豊富な糖分やリンゴ酸、クエン酸などの有機酸とともに疲労回復に有効です。

便秘解消に

梨にはざらついた食感がありますが、これはリグニンやセルロースなどの食物繊維からできている石細胞と呼ばれるものです。繊維のかたまりなので、便通を促す作用があるといわれ、便秘の人に有効です。

食物アレルギーの特定

梨はアレルギーを起こしにくい食品と言われており、アレルギー源を特定するための除去食としてしばしば使われます。

梨の歴史

日本梨の歴史

弥生時代の登呂遺跡で種子が出土したことから、日本で最も古い栽培果実の一つであるとされています。

「日本書紀」には、桑・栗などともに梨の栽培をすすめる記述が見られます。

江戸時代になると、各地で盛んに栽培が行われました。都市近郊の果樹園では集約栽培が行われ、150種類以上もの品種が作られたことが、幕府の産物帳などからうかがえます。

明治時代には「長十郎(ちょうじゅうろう)」「二十世紀(にじっせいき)」の二代品種が育成され、大正時代以降にはさらに品種改良が急速に進み、「三水」と呼ばれる現在もおなじみの品種「幸水(こうすい)」「新水(しんすい)」「豊水(ほうすい)」などが登場して広く普及しました。

西洋梨の歴史

原産地は、ヨーロッパ中部から小アジアにかけての一帯で、有史時代には野生種から改良されて栽培されるようになりました。

11世紀には、ヨーロッパ各地で本格的な栽培が広まりました。

日本には明治時代に山形県に導入されましたが、当初は普及せず、おいしさが再認識されたのは昭和になってからのことでした。

梨の豆知識

なしの語源

梨は古くから日本人に馴染みのある果実だということもあり、その語源も諸説が言われています。
★実の中心が酸っぱいので「中酢(なかす)」といい、これが転じて「なす」になった。
★次の年まで色が変わらないところから「なましき」と言われて、「なし」となった。
★「性白実(ねしろみ)」から「なし」となった。
★「実が甘し」ということから「なし」となった。
★「夏実(なつみ)」から「なし」となった。

有の実

宴席や料亭などでは、「なし」という呼び名が「無し」や「亡し」に通じることを忌み嫌って「有の実(ありのみ)」と呼ばれることがよくあります。この語の起源はかなり古く、平安時代までさかのぼります。平安朝の女房言葉で既に「有りの実」という呼び方があったと伝えられています。

山梨県

県名に梨の文字が使われていますが、その由来は「山に囲まれ、梨の樹が多く生えていたことから、そう呼ばれるようになった」と言う説があります。また別説では「山麓を切り開き平らにした」と言う意味で「山平」→「やまならし」が元になったという説もあります。

桃栗三年、柿八年

というよく知られたフレーズには続きがあって、「柚(ゆず)は九年でなりかかる、梨の大馬鹿十八年」とつながります。語呂の良さからか「十八年」になっていますが、実際は柿と同じ8年ぐらいで実をつけ始めるそうです。そして、実際の商業栽培では種から育てることは無く、接ぎ木で増やしていきますので、3年目ぐらいから実がなり始めます。

梨園

とは歌舞伎界のことを指します。これは唐の玄宗皇帝が、梨のたくさんある庭に楽師たちをおいた、という故事に由来します。

ごみ捨て場で生まれた梨

「二十世紀」は、明治31年、千葉県の松戸に住んでいた松戸覚之助と言う人物が、ごみ捨て場に生えていた1本の梨の木を自宅に持ち帰って改良をしたのが始まりだそうです。実がなったのが1897年で、20世紀直前だと言うのでこの名前が付きました。現在でも松戸の郷土資料館にこの時の原木が保管されているそうです。