鯛 – たい – Japanese sea bream

鯛(たい)の旬

まだいの旬は冬から春にかけてです。

特に産卵を前に身が充実した桜の季節のまだいは「桜鯛」「花見鯛」と呼ばれ極上品として扱われます。

春から夏への産卵を終えると味がおちます。麦の色づく6月頃のものは「麦わらだい」「落ちだい」と呼ばれて敬遠されます。

種類により旬になる季節は異なります。

鯛(たい)の種類

「たい」と名のつく魚は日本周辺でも200種を超えますが、その内分類上でタイ科と呼ばれるのは10数種です。それ以外の「~だい」と呼ばれる魚は、本物に「あやかりタイ」ということになり、縁もゆかりもありません。

世界では、タイ科の魚は100種類くらいいます。

小型の赤い鯛はどの種も「春子(かすご)」と呼ばれます。

真鯛(まだい)

(別名)たい、ほんだい、おおだい
タイ科を代表する種類で、普通に「たい」と言えばこの種類を指します。姿、色、味ともに最高です。尾びれの後ろ縁が黒ずむのが特徴です。2年で20cm、4年で30cm、6年で40cmほどになり、最大では1mにもなります。東シナ海、西日本から本州中部太平洋岸で漁獲されます。養殖も盛んで、養殖ものの成長は天然ものよりも早くなります。産卵期は春から夏で、南方ほど早くなります。旬は産卵前の初春で、桜鯛として珍重されます。

血鯛(ちだい)

(別名)はなだい、ちこだい
まだいによく似ていて、市場では同じように扱われます。尾びれに黒い縁が無く、えらぶたが赤いので、まだいと区別できます。体長は40cmくらいです。北海道南部から台湾までの沿岸に分布します。まだいの味が落ちる夏が旬で美味になります。

黄鯛(きだい)

(別名)れんこだい
体は黄赤色、背中に黄いろい班(はん)があるのが特徴です。新鮮なものほど頭が黄色をしています。南日本から台湾までの暖かい海を好みます。体長約40cm。産卵期は初夏と秋の2回です。きれいな色をいかし、折り詰め用の姿焼きや煮物などにされます。

鰭小鯛(ひれこだい)

(別名)えびすだい
まだい、ちだいに似ていますが、背びれの第3~4番目の棘(とげ)が長く糸状に伸びるのが特徴です。東シナ海から南シナ海の100mより浅い海に棲みます。塩焼きや煮つけにされて美味です。秋が旬です。

黒鯛(くろだい)

(別名)ちぬ、かいず、ちんちん
体は銀灰色で口が尖っています。北海道南部から朝鮮、中国の沿岸内湾部で獲れます。3年で20~25cm、成長すると60cmくらいになります。産卵期は春から夏です。特に初夏が旬で、刺身やあらい、塩焼きなどで味わえます。雑食ですいかやとうもろこしなどを餌(えさ)にした釣りも各地で行われています。

平鯛(へだい)

銀白色の地に黄色い細い線が頭部から尾に向けて走り、口は丸みを帯びます。西日本からオーストラリアまで広く分布します。産卵期は初夏です。くろだいより美味とされます。

養殖物

真鯛(まだい)は商品価値が高いので、昔から養殖が盛んです。養殖物は浅いところで育てられるので、日焼けのため、天然物に比べて黒ずんでいます。運動不足や栄養過多によって脂肪分が多くなり、味も落ちるというのが、これまでの評価でした。
最近では養殖技術も色々と工夫され、色も味も、かなり天然物に近いものが出回っています。

輸入物

最近では香港産の真鯛(まだい)が空輸で大量に輸入されてきています。これらは日本産の真鯛と同一種なので外見からはほとんど区別できません。日本産に比べてやや赤みが薄いものが多いようです。

豪州真鯛(ごうしゅうまだい)

日本の真鯛と良く似ていますが、成長につれ後頭部が大きく隆起するのが特徴です。オーストラリアやニュージーランドから、氷蔵にして日本に空輸されます。日本産真鯛の代用品として、祝いの膳に塩焼きなどで利用されます。

ヨーロッパ真鯛

日本産の真鯛に非常によく似ており、判別するのはは難しいです。尾びれの縁が黒くないこと、体がやや細いことで区別できます。スペインなどから冷凍物が輸入されます。塩焼きやフライ、煮物に利用されます。

鯛(たい)の加工品

鯛は古くから重用されてきた魚なので、さまざまな料理方法や特産物が工夫されています。

「鯛ずし」、「鯛めし」、「鯛茶漬け」、「鯛みそ」、「鯛でんぶ」、「笹漬け」など、各地で特産品として売られています。

真鯛の産卵前の卵巣や[真子(まこ)]、精巣[白子(しらこ)]は珍重され、本体よりも高く売られます。

鯛(たい)の選び方

大きさでは「鯛は目の下一尺」といって、40~50㎝、重さ2kg前後のものが最も美味と昔からいわれています。

身が厚く、尾に幅があって太っているものを選びます。

色鮮やかなものは新鮮です。

一尾で求める場合は、「活け鯛」と呼ばれる活け魚か活けじめしたものが商品価値の高いものです。但し、生けすに長く置きすぎると味が落ちます。こういうものは目が窪んできて「めぬけだい」と呼ばれることもあります。

目の上が青っぽい紫色に輝いているものは鮮度の良いものです。鮮度が落ちてくると青紫の輝きはなくなってしまいます。

目が濁っていて、落ち込んでいるものは鮮度不良といえます。生け締めにして間がないものほど肌の色が鮮やかです。

養殖物は尾びれや背びれが擦れており、天然物に比べて体が黒っぽいのが特徴です。顔にも険しさがありません。基本的に「天然物」という表示のないものは養殖物です。

切り身では、天然物が半透明感があり白っぽいのに対し、養殖物はわずかに赤みがあって灰色がかっています。

刺身用のものは、赤みが鮮やかで透明感があり、光沢のあるものが新鮮です。

鯛(たい)の調理法

鯛は、色も形を良いので、姿を生かした調理をする場合が多いです。それ以外では、水洗いした後、2枚か3枚におろします。

上品な味を殺さないように、味付けは薄味にし、あまり加熱しすぎないのが料理のポイントです。

鱗を取る

鯛の鱗(うろこ)は 大きく、堅いので、残さないようにていねいに取って調理するのが調理のポイントです。ひれの下や目の上、ほお身などの鱗もきれいに取りのぞきましょう。

鯛の鱗は、鮮度が良ければ良いほど、取れにくいので、大根ぐらいでは取れません。鱗取りの道具を使って取ったほうが取りやすいでしょう。

包丁でとる場合には刃を皮肌につけて、すきとるようにこそげとってください。

鯛の鱗は、飛び散って乾くと、ぴったりとひっついてはがすのに苦労します。うろこ取りはビニール袋の中で行うのが良いでしょう。

水洗いする
  • 全体の鱗をきれいに取る。
  • えら蓋を開けてえらの付け根を切り離す。
  • かまの下から排泄口まで引くようにして切り開く。
  • えらをつかみ、内臓といっしょに取り除く。
  • 腹を開き、中骨の裏に包丁で切れ目を入れておく。
  • 流水で良く洗い、血合いをきれいに取る。
  • 全体を濡れぶきんでふく。

鯛の料理法

和食

刺身を初め、昆布じめ、椀だね、煮物、焼き物、蒸し物、鍋物、酢の物など、多彩な料理に使われます。

西洋料理

マリネ、ワイン蒸し、ワイン煮、ロースト、バターソテー、パイ包み焼きなど。

中華料理

姿蒸し、煮物、揚げ物など。

鯛の各部位の調理法

鯛はほとんど捨てるところがありません。頭や中骨、皮、真子、白子など、余すことなく色々な料理に使えます。

頭やあらを利用したもの

かぶと焼き、かぶと蒸し、潮(うしお)汁、あら煮、ちり鍋など。

皮を利用したもの

刺身の松皮作り、湯通ししたあとポン酢やしょう油で、油であげた珍味など。

中骨を利用したもの

骨蒸しなど。

その他、真子の含め煮、白子の酢の物など、様々な調理法があります。

お頭つきの塩焼き
  • 鱗をていねいに取り、水洗いします。
  • 串打ちをします。
  • 尾の付け根の裏側から串を入れて、中骨の1/3の長さに縫って頭のうしろに串を出すようにします。
  • 焼いた後、皮が破れないように、4~5本の竹串で全体に穴をあけます。
  • ひれが焦げないようたっぷりの塩をもみこんで形を整えます。
  • 全体に振り塩をします。
  • すぐに、強火の遠火で盛り付けたときの表側を、六分(ろくぶ)程度焼きます。
  • ひっくり返して、十分中まで火を通します。
  • 串を抜いて盛り付けます。

鯛(たい)の保存法

1尾魚はうろこを取り、内臓を出して、水洗いしたあと水気をきれいにとり、そのままぴったりとラップをして、肉・魚専用室かチルド室に入れておきます。鮮魚としては日保ちするほうで、4~5日もちます。

冷凍するときは、うろこを取り、内臓を出して、水洗いしたあと水気をきれいにとり、そのままぴったりとラップをして、空気をしっかり抜きます。1ヶ月ぐらい保存できます。

刺身が残ったときには、軽く塩をふって、昆布で巻いてみましょう。2~3日はもちます。昆布が余分な水分を吸うとともに、昆布にうまみも出て、おいしく食べることができます。

「腐っても鯛」と言われるように、鯛は分解されにくいイノシン酸を含むため、鮮度が落ちても味は変わりにくいのが特徴です。肉質中の水分が少なく脂肪が安定しているため、細菌も繁殖しにくいのですが、まったく繁殖しないということはありませんので、過信しすぎないように注意して下さい。

持ち方

鯛に限らずですが、魚を持つ時は縦に持ちます。魚の体を持って横に持ち上げると、身が折れたり、また温かい手で腹をもっていては痛みやすいのです。魚の体がまっすぐになるようにぶら下げて持ってください。

鯛(たい)の栄養・効能

鯛は脂質が少ないわりにうまみのある魚で、グルタミン酸をはじめとするアミノ酸がバランスよく含まれています。成分としては、タンパク質、ビタミンB1が多く含まれ、他かにもタウリン、ナイアシン、ビタミンB2、カリウム、EPA、DHAなどが含まれます。

食欲増進、疲労緩和に

ビタミンB1は消化液の分泌をうながし、糖質の代謝を促して、食欲を増進させます。食欲不振のときや、疲労感が強いときに摂取したい栄養素です。タウリンも多く含み、疲労緩和とともに、脳神経のはたらきを活発にし、視力回復や肝臓病の予防にも効果があります。

冷え性緩和や二日酔いのときに

ナイアシンはビタミンの一種で、血行をよくし、悪玉コレステロールを減らして善玉コレステロールを増やす作用があります。皮膚の弱い人や冷え性の人におすすめです。胃腸のはたらきを良くするはたらきもあるので、胃腸の調子に自信のない人や二日酔いの時によいでしょう。

口内炎や生活習慣病に

ビタミンB2は、細胞の再生や成長促進、過酸化脂質の生成防止などにかかわるビタミンです。口内炎や目の充血時の症状緩和や、過酸化脂質が引き起こす動脈硬化、脳卒中などの予防に効果があります。

EPA、DHAが豊富

俗にいう青魚ではありませんが、EPA、DHAともにとても多く、アレルギー体質で青魚の食べれない人にとても役立ちます。EPA、DHAは血中のコレステロールや中性脂肪を低下させる作用や、高血圧や動脈硬化の予防、抗炎症・抗免疫作用、抗ガン作用、脳や神経の機能を維持する、など多くの有効な作用があります。

老化防止

クロダイ、チダイや養殖の真鯛にはビタミンEも多く、これは老化防止、発ガン物質の抑制にも効果があります。

高齢者の食事や離乳食に

脂質が少なくタンパク質を多く含んで、消化吸収が良いので、高齢者や離乳食に最適です。

塩分の気になる人は、刺身もポン酢で

カリウムを比較的多く含み、塩分の排出に効果がありますが、薄味で食べないと効果がないので、塩分を控えたい人は、お刺身もポン酢などで食べるとよいでしょう。

鯛(たい)の歴史・由来

古(いにしえ)より日本人ゆかりの魚
日本人は古くから鯛を食用としていました。縄文人が真鯛を食べていたことは、貝塚から鯛の骨が出ることから明らかになっています。

神話にも「赤女(あかめ)」の名で登場しています。

平安時代には「平魚(たいらうお)」という記述が「延喜式(えんぎしき)」にあります。「平魚(たいらうお)」と呼ばれた由来は、体形が平らなところからつけられためで、「たい」という名は「たいらうお」が略されたためという説があります。

鯛が一番になったのは江戸時代から

今でこそ鯛は魚の中で一等の座にいますが、鯛が一位とされたのは江戸時代からのことでした。
それ以前で最高とされた魚は「鯉(こい)」でした。これは都の京都が内陸にあったので、手に入れられる鮮魚では淡水魚である鯉が第一等であったためです。

兼好法師も「徒然草」の名で「鯉ばかりこそ、御前にても切らるるものであれば、やんごとなき魚なり。」と書き、鯉を魚類で一番としています。

ちなみに、明治時代以前は、鯛と言えば真鯛がほとんどでした。遠洋漁業の発達により沖合いのちだいやきだいも獲られるようになりました。

名前の由来

「鯛」という字は、もともと中国では別の魚のことを指していたのですが、日本人が「たい」という魚のことを書くのに当てはめてしまったそうです。また「たい」という名前は、えびす様が釣る魚だから「めでたい」魚で、それを略して「たい」といったという説や、平らな魚、「たいらうお」が略して「たい」になったという説、一級品としての魚「大位(たいい)」から「たい」になったという説など、様々な説があります。

鯛(たい)の豆知識

なぜ縁起もの?

一般的には「めでたい」の「たい」に通じるためと言われていますが、単に語呂(ごろ)合せだけでなく、鮮やかな赤い体色や、勇壮な姿形、上品な味など、他の魚と比べて、どれをとっても優れていて、日本人の心根に通じるところがあったためと思われます。特に古くから「赤女(あかめ)」と呼ばれたその赤い色は、赤をおめでたい色とする日本人の風習に受け入れられたのでしょう。

真鯛の雄と雌の見分け方

頭がこぶ状に張り出しているものは雄、頭全体が丸みを帯びているものは雌です。

黒鯛の性転換

黒鯛(くろだい)や平鯛(へだい)は成魚になると性が変わることが知られています。幼魚は全て雄ですが、途中雌雄同体の時期があり、5年後にはほとんどが雌に性転換します。

蝦(えび)で鯛を釣る

ことわざにもあるように、鯛はえびを好みます。鯛が赤いのは、えびの殻に含まれるアスタキサンチンという色素のためです。鯛はあごが良く発達し、丈夫な臼歯(きゅうし)で、固い甲羅もバリバリと噛み砕きます。甲殻類のほか、貝やヒトデ、イカ、ウニなどを食べる種類もあります。

鯛は長命

魚は一般に短命のものが多いのですが、真鯛は長命で、通常30年くらい、長生きするもので40年も生きるそうです。
老年の真鯛は体がいくぶん細くなり、顔つきも少し尖ってくるそうです。