人参 – にんじん – carrot

にんじんの旬

本来の旬は初冬の11月~12月頃ですが、全国で気候に応じた品種が栽培されていて、一年中市場に出回ります。

にんじんの種類

にんじんはアジア型とヨーロッパ型に大きく大別されます。

アジア型

根が長く、赤色系が多くて、肉質が緻密(ちみつ)で柔らかいのが特徴です。赤みが強いのはトマトと同じリコピンという成分のためで、カロチンを含まないためににんじん臭が少なく風味は良いです。煮ものやなますに向いています。江戸時代から大二次世界大戦後までは広く栽培されていましたが、長根で収穫しにくいという欠点があり、扱いやすいヨーロッパ型に次第に追われて、1970年以降は収量も品種数も激減しました。

滝野川大長(たきのがわおおなが)

70cmほどになり、肉質が良く風味もよい良品ですが、栽培が難しく、とうも立ちやすいことから、1960年以降激減し、現在ではほとんど栽培されていません。

金時(きんとき)

(別名)京にんじん
アジア型にんじんの唯一の実用栽培品種で、関西以西の秋冬にんじんとして「京にんじん」というブランド名で栽培されています。鮮やかな濃紅色で長さ30cm、太さ6~7cm、甘みが強くてにんじん臭が少なく、肉質は柔らかいが煮くずれしにくいのが特徴です。関西の正月料理や日本料理、すしの具などに利用されます。若葉は柔らかく風味があるので、京とでは「葉にんじん」としておひたしやごまあえなどで食べられます。11月~3月頃出回ります。収量が少なく、とう立ちが早いのが欠点です。

琉球にんじん

沖縄特産のにんじんで、暑さに強く、黄色に近い色が特徴です。甘みがあり、煮ものやいためものに利用されます。

ヨーロッパ型

現在多く出回っているのはこちらです。主にだいだい色で、甘みもカロチンも豊富です。夏から秋に収穫する寒冷地型と、晩秋から冬に収穫する暖地型に分化しています。更にトンネル栽培により晩冬から春への収穫も可能になって、一年中の栽培供給が確立されました。国分大長(こくぶおおなが)などの長根種もありますが、需要、生産量共に多いのは短根種です。9~10cmを「三寸」、12~15cm前後を「四寸」、15~20cmを「五寸」と呼び分けています。現在の実用品種は「五寸」です。そのほか、ナンテス、ベビーキャロットなどがあります。

五寸(ごすん)にんじん

最も一般的なにんじんです。栽培しやすいために1970年頃から主流になりました。長さは15~20cmで、根の先が丸くつまっているものが多く、太めです。カロチンが多く、和・洋・中と広く料理に使われます。

国分大長(こくぶおおなが)

長さが60~70cmにもなり、柔らかくて甘みも強いのですが、栽培に時間と手間がかかるために、現在では正月用などがわずかに出荷されるのみです。

ナンテス系

上から下まで全体の太さが変わらないのが特徴です。ヨーロッパでは広く栽培されているのですが、暑さに弱く、日本では北海道で主に栽培されています。ずん胴型なので、どこで切っても同じ大きさに切れて盛り合わせに便利なことから、外食産業での需要が増えています。カロチンは従来種の1.5倍ありますが、にんじん臭が少なく、生食にも向いています。

ミニキャロット

(別名)ベビーキャロット、一口にんじん
長さ7~10cm前後の小型のにんじんで、サラダ用に生食されます。ヨーロッパではフォーシング型と呼ばれて、温床栽培されています。

にんじんの加工品

ジュース

以前はあまり注目されませんでしたが、様々な改良を加えられた結果、健康志向の波にも乗り、平成3年頃から爆発的な人気を呼びました。平成6年度で市場規模はおよそ500億円に達し、トマト系飲料と肩を並べるほどになりました。

そのほかの加工品として、ジャム、クッキー、ケーキなどが流行っているようです。

にんじんの選び方

色が濃くあざやかなものを選びましょう。赤みが強いものほどカロチンが多いのです。

表面はツルンとしてハリがありなめらかで、ひげ根が少ないものが良いでしょう。ひげ根が少ないことは育った栄養状態が良いことを示しています。

形は太めで先端が丸くつまっているものがよいでしょう。

切り落とした茎の部分にも注目してください。なるべく茎が細いものを選びましょう。茎が細ければ、それだけ芯も細くてやわらかいということです。

茎の周囲、首の部分が青かったり黒ずんでいるものは甘みに欠けるので避けましょう。

にんじんの調理法

カロチンを上手に摂取しましょう
にんじんはカロチンの豊富な食べ物です、このカロチンは油に溶ける脂溶性ビタミンで、油と一緒に取ることでビタミンAとしての吸収率がより高くなります。カロチンの吸収率は、生のにんじんで10%、ゆでた場合で30%、オリーブオイルなどの油を使うと50%~70%とかなり差があります。

そのため、カロチンを上手に摂るには油を使った料理が効果的です。てんぷらやきんぴら、サラダ(油入りのドレッシングを使用)、バターソテー、炒め物などにすると良いでしょう。

皮に近い方が栄養豊富です

外側の皮に近いほうがカロチンを多く含んでいます。皮はごく薄めにむきましょう。ただし、皮にはアクがあるので、生で食べる場合などは必ず皮をむいて使いましょう。特に煮物に使う場合、皮をむかずに使うと、皮の部分が真っ黒になり、見た目も味わいも良くありません。残った皮は、きんぴらやかき揚げなどに利用できます。

部分に応じた使い方を

芯の部分は固く、味わいも劣るので、スープなどにすると良いでしょう。外側は柔らかく、甘みも多いので、サラダなどの生食にしても美味しく食べることができます。

葉も栄養が豊富です

葉には、根の2倍以上のビタミンAを始め、タンパク質(根の3倍)、カルシウム(根の5倍)、脂質、鉄分、ビタミンCなど、栄養分が豊富に含まれています。タンパク質はスレオニン、リジンなど必須アミノ酸に富んでいます。
店頭に出回ることは少ないですが、入手できたときには捨てずに食べたいものです。夏の関西では、にんじん菜や葉にんじんという呼び名で出荷されます。
食べ方は、きざんでしょうゆ煮や、妙め物、揚げ物がよいでしょう。やわらかい若葉は、さっとゆでておひたしにしてもおいしいです。

生のにんじんはビタミンCを破壊します

にんじんにはアスコルビナーゼというビタミンCを破壊する酵素が含まれています。にんじん自身のビタミンCのみならず、いっしょに調理した他の野菜のビタミンCをも破壊します。すりおろしたりジュースにすると、アスコルビナーゼの活性度がより高くなるので、できるだけ食べる直前に調理するようにします。
アスコルビナーゼは熱と酸に弱いので、ゆでたり、炒めたり、酢を少し加えることでビタミンCの破壊作用はなくなります。もみじおろしやミックスジュースなどを作るときは、柑橘系の果汁やお酢をかけてからあわせると良いでしょう。酢は多すぎてもカロチンを破壊するので注意しましょう。

にんじんの保存法

比較的保存しやすいですが、夏と冬では保存法が違います。

夏場は、泥を落としたら、むれないように水分をよくふいて、新聞紙に包んだ後、ポリ袋に入れて冷蔵庫の野菜室で保存してください。

冬場はポリ袋で乾燥を防げば、常温で1~2週間の保存が可能です。また、土に埋めると春までもたせることができます。

1本を1回で使い切れないときは、先の方から使用し、残りは水分を取り除いてからポリ袋に入れて冷蔵庫で保存すると良いでしょう。芽が出るまでに食べきってください。

冷凍する場合は、後で調理しやすいように、薄切りや乱切りにカットしておきましょう。しっかりとゆでて、よく水気をきり、表面をふいて冷凍します。約2ヶ月ほどもちます。使うときは、熱湯にくぐらせるか、凍ったまま炒めます。料理に色どりが欲しいときなど便利です。

にんじんの栄養・効能

にんじんは、カロチンを大量に含んでいる緑黄色野菜の王様です。英語でにんじんのことをキャロットといいますが、キャロットの語源はカロチンなのです。カロチンにはいくつかの種類がありますが、特ににんじんにはβカロチンが豊富です。βカロチンは抗酸化作用(こうさんかさよう)を発揮して活性酸素のよる害を防ぐだけではなく、体内で必要な量だけビタミンAに変わって、皮膚や粘膜を健康に保つはたらきがあります。αカロチンも豊富で、がん予防に効果が期待されています。

その他、食物繊維、ビタミンB1、B2、Cのほか鉄分やカリウム、カルシウムなどのミネラルも多く含みます。食物繊維は水溶性ペクチンで、便通を良くし、高血圧や動脈硬化を予防します。鉄は造血を促し、血行をよくするので、貧血はもちろん、虚弱体質や疲労回復にも役立ちます。カリウムは体内のナトリウムを排泄(はいせつ)して血圧を下げる作用があります。また、目の粘膜(ねんまく)を強くするので、疲れ目や夜盲症(やもうしょう)、結膜炎(けつまくえん)を予防します。

金時にんじんの赤みはカロチンではなく、トマトと同じリコピンという成分です。こちらも活性酸素を除去して生活習慣病の予防に役立ちます。

にんじんの葉も緑黄色野菜で、ビタミンやミネラルが豊富に含まれています。カリウム、カルシウム、ビタミンCは、根の部分よりも多く含まれています。

抗がん作用

βカロチンが肺がんやすい臓がんの抑制に効果があることや、カロチンやビタミンCの不足が子宮頚(しきゅうけい)がんの原因になることが、米国で発表されています。カロチンが変化してできるビタミンAはのどの粘膜を強化するので、喉頭(こうとう)がん、食道がんの予防になります。また食物繊維による排便促進、カロチンの抗腫瘍効果(こうしゅようこうか)が、大腸がんの予防につながることがわかってきています。

抗酸化作用

活性酸素は体内の脂質を酸化させて過酸化脂質(かさんかししつ)を作り、動脈硬化(どうみゃくこうか)や心筋梗塞(しんきんこうそく)を引き起こします。カロチンにはこの活性酸素を抑制し、体の抵抗力を高めるはたらきがあります。

疲れ眼に

ビタミンAには眼の角膜を正常に保つはたらきがあります。夜盲症(やもうしょう)や眼精疲労(がんせいひろう)、角膜の乾燥などを予防します。

肌のカサつき、風邪の予防に

ビタミンAが不足すると、上皮組織の粘膜が乾燥し、肌がカサカサして固く傷つきやすくなります。また細菌やウイルスの侵入を許して、風邪などひきやすくなります。ビタミンAは皮膚やのど、気管支、肺などの上皮組織を正常に保ち、肌にうるおいを与えて、風邪の予防にも効果があります。

高血圧症に

カリウムには体内のナトリウムを排出するはたらきがあり、血圧を下げるはたらきがあります。

冷え性に

鉄分を含むので、造血作用が期待でき、血行を良くするので、貧血や冷え性、虚弱体質、病後の回復などに効果があります。東洋医学でも、内臓をあたため、血を補う働きがあるとされています。

整腸作用

食物繊維が豊富なので整腸作用が期待されます。便通が改善され、大腸がんの予防にもつながります。にんじんに含まれる食物繊維はペクチンで、ペクチンは水溶性なので、スープやシチューにした場合は、汁までのこさず飲み干すようにするとよいでしょう。

にんじんの民間療法

下痢に

にんじんをすりおろしたり、やわらかく煮て食べると効果があります。

せき、気管支炎に

生のにんじんをすりおろして食べたり、しぼり汁をさかずきに1~2杯飲みます。

高血圧に

1回に100g分をジュースにして、1日に2~3回服用します。

夜尿症に

皮をきつね色になるまで焼いて食べさせます。1本で3回分が目安です。

しもやけに

すりおろした汁を患部にすりこんでマッサージを続けると、かゆみがとれます。

にんじんの歴史・由来

アフガニスタンに野生種が見られ第一次原産地とされています。10世紀頃中近東に伝わり二次的分化をとげ、これより東に伝わったものがアジア型にんじん、西に伝わったものがヨーロッパ型にんじんとなります。

アジア型にんじんは、13世紀に中国に伝わり、16世紀末には大長にんじんが日本に伝わったとされています。日本で古くから知られていた薬用人参(朝鮮にんじん)と根の形が似ており、その葉の形はセリに似ていることから「芹人参(せりにんじん)」とよばれていました。また、薬用ではなく野菜として食べられることから「菜にんじん」とも呼ばれ、短期間のうちに全国各地に広まり、地方品種が発達しました。当時の文献には、黄色、赤色のほか紫色、白色の記述もあり、品種の多彩さがうかがえます。

一方、ヨーロッパ型にんじんは、12~13世紀にヨーロッパに伝わり、15世紀にはオランダで、それまでの黄色の品種から現在種の基礎となるオレンジ色のものが栽培されました。その後19世紀にはフランスで改良が進みました。日本へは江戸時代末期に長崎へ渡来したのが最初で、明治に入ると多くの品種が入ってきました。

アジア型のにんじんは良質なのですが、栽培しにくいという欠点があり、昭和30年代以降はヨーロッパ型のにんじんが主流になっています。

にんじんの豆知識

にんじん100%のジュース

スーパーの飲料品コーナーにいくと、「にんじん100」とか「キャロット100」といった品名のにんじんジュースがいろいろ並んでいます。それらの一つを手にして、成分表示を見てみると、にんじんのほかにレモンや食塩、はちみつなどが含まれていることがわかります。これを見て「にんじん100%じゃないのに偽りの表示をして!」と怒ってはいけません。実は、JAS規格により、「にんじんジュース」には、レモン等の果汁や食塩、はちみつ等の調味料を合わせて3%までの使用が認められており、この場合でも「にんじん100」「キャロット100」などの表記が許されているのです。にんじんには、上記調理法のコーナーでも記した通り、アスコルビナーゼというビタミンC破壊酵素が含まれるため、この作用を防ぐためにレモンなどの果汁が有効なのです。また、にんじんには独特なにおいがあるため、飲みやすくするための調味料が認められているのです。

元来にんじんとは朝鮮にんじんのこと

朝鮮にんじんはウコギ科の多年草で、にんじんとはまったく別の植物です。実は、にんじんという名は朝鮮にんじんの根の形が人間の形に似ていることから名づけられたそうです。にんじんとは「人参」の呉音読みで、朝鮮にんじんが6~7世紀に朝鮮半島経由で日本に入ってきたことを物語っています。一方、野菜のにんじんが日本に入ってきたのは16世紀のことで、根のかたちが薬用のにんじんに似ていることから、「芹(せり)にんじん」「菜にんじん」などと呼ばれました。この菜にんじんが、おいしくて貯蔵もきくことから全国に広まり、17世紀頃にはにんじんと呼ぶようになったそうです。