茄子 – なす – egg plant ,aubergine
茄子の特徴
夏秋野菜の代表格
もともとが熱帯性の植物であったため高温多湿を好み、夏から秋にかけておいしくなる野菜です。中国やヨーロッパなどで世界各国でよく食べられています。
日本全国で栽培
日本でも古くは奈良時代から栽培され、江戸時代には最も需要の多い野菜の一つとなりました。日本各地でその土地土地に合った数多くの品種が作られています。本来は高温地でないと育たないはずなのですが、最近では極早生に限り北海道にまで産地を広げています。
いろいろな料理に
根強い人気の原因は、栽培のしやすさに加えて調理や加工バリエーションの幅広さがあげられます。各地で漬け物加工されるほか、油との相性がよいので炒め物や天ぷらなどのいろいろな料理に良く使われます。
茄子の旬
冬から春先は施設栽培もの、夏から秋は露地ものが出まわり、年中手に入れることができますが、本来の旬は8月から9月頃です。この時期のものは味がよい上、収穫量が多くて値段が安いのです。そういう意味では、まだまだ季節性の高い野菜の一つといえます。
「秋茄子は嫁に食わすな」という有名なことわざがあるように、この季節の茄子は肉質がやわらかく、かつ緻密でおいしいものです。茄子は、花が咲いた後の日照時間で品質が決まります。晴天が多く日照時間の多い夏から秋に育ったものが一番おいしく育つのです。
茄子の種類
世界中では1500もの品種があると言われています。丸形やきんちゃく形、ひと口サイズの小なすから、長さ50センチもある中国産のへびなすまで多種多様な品種があります。色も紫色、白色、黄色、緑色などさまざまです。
日本でも各地でそれぞれの気候や土質、食習慣に合った品種が数多く作られていました。今も作られている地方種はブランド化し、少量でも作りつづけられているところは数多くあります。
形によって、丸なす、小丸なす、卵なす、中長なす、長なす、大長なす、米なすの7種群に分けられます。
現在では、煮る、焼く、揚げる、漬けるなどの多用途に向いていて、収量が多く栽培もしやすい長卵形の中長なす(千両など)が主流になっています。
丸なす
関西や北陸から東北にかけて多い晩生種です。ほぼ球形で、肉質は緻密でやわらかく、煮崩れしにくいので煮物にも漬け物にも適します。「賀茂なす」で知られる京都の「大芹川(おおせりかわ)」が代表格で、ほかに新潟の「巾着(きんちゃく)」、千葉や高知などの「早生大丸」、やや小型の「魚沼巾着(うおぬまきんちゃく)」、「大阪丸(おおさかまる)」などがあります。主産地は奈良県大和郡山市や京都府加茂、福島、信越地方などです。
「賀茂なす」は、肉質が緻密で味がよく、油のなじみもほどほどで、油を吸いすぎてべとつくことがないなど、すぐれた特質があります。田楽(でんがく)にすると、とろけるような絶妙なやわらかさになり、また、しば漬けにすると歯切れがよく美味です。油で焼くしぎ焼きにも欠かせません。大きいもので直径10cmぐらいになります。生産しにくく収量も少ないため、京野菜の一つとしてブランド品扱いで珍重されています。
小丸なす 別名:茶せんなす、一口なす
丸なすから派生した極早生種です。東北、信越、関西、高知などに分布します。漬け物に適した品種で、塩漬け、からし漬けなどにされます。また、小型の形を生かして天ぷらにしたり、茶筅煮(ちゃせんに)にしても見栄えがするので日本料理店でもよく利用されます。山形の「民田(みんでん)」、「出羽小なす」、京都の「椀ぎ(もぎ)」などの代表品種のほか、「竜馬」「はやぶさ」といった品種があります。「出羽小なす」はからし漬けで有名です。「椀ぎ」の名は、たくさん成る果実をもぎ取るように収穫したためといわれています。
卵なす
関東中心に分布する早生種です。果皮が濃紫色で光沢があり、美しいので、浅漬けに最適の品種です。皮はやわらかく肉がしまっているため、煮物、焼きなす、天ぷらなどにもよく合います。埼玉の「真黒(しんくろ)」、京都の「山科なす」、石川の「へた紫」などがよく知られています。
大阪岸和田の「水なす」は、しぼれば水がしたたるほどに水分が多くてやわらかく、浅漬けにしたときの品質は最高級です。輸送がむずかしく大阪市場に少量でる程度ですが、最近は一部東京方面にも出回ります。「泉州水なす」の名でブランド化されています。
中長なす
長卵形で長なすと卵形なすの中間の大きさです。味にくせがなく、煮ても焼いても漬け物にも向くので幅広く料理に使われています。寒冷地でも温暖地でもつくれることから全国的に最も普及している種類です。中早生種の「千成(せんなり)」がよく知られており、収量は少ないですが品質は最高です。ほかに近畿の「橘田(きった)」、「大阪中長」や「千両」「千両2号」「早生大名」などが代表品種です。
長なす
果実は長円筒形をしており、関西型と東北型があります。関西以西のものは一般に皮がかたくて果肉がやわらかいため、漬け物にはあまり向きません。煮物、油炒めなどのほか、焼きなすにすると美味しいです。若取りしたものは漬け物にも使用されます。「大阪長(おおさかなが)」「大仙長(だいせんなが)」「熊本長(くまもとなが)」「津田長(つだなが)」などがあります。一方、東北型は果肉がよくしまり、煮物のほか漬け物にも向いています。代表品種には「仙台長(せんだいなが)」「河辺長(かわべなが)」などがあります。
大長なす
九州で栽培される晩生種で、長さ40~45cmにも成長します。耐暑、耐寒、耐病性にすぐれ、果形は長円筒形です。皮がかたく肉質はやわらかいので、焼きなす、煮物などに使われます。漬け物にはあまり向きません。「佐土原(さどわら)」、「博多長(はかたなが)」、「久留米長(くるめなが)」「長崎長(ながさきなが)」「松山長(まつやまなが)」「庄屋大長(しょうやおおなが)」などがあります。
米なす(べいなす) 別名:ブラックビューティー
大型の丸なすで、茎やへたが緑色をしているのが特徴です。もともと中国の品種でしたが、アメリカから導入されたのでこの名で呼ばれています。肉質は緻密でやわらかくて油との相性が特によく、煮物、田楽(でんがく)、バターソテーに適しています。漬け物には向きません。「くろわし」「早生米国」などの品種があります。
茄子の選び方
色つやで見きわめる
果皮につやがあって張りのあるもの、紫色の濃いものを選びましょう。色の薄いものは太陽に充分当たらず、品質がよくないことが多いものです。表面に傷やしみ、しわがあるものは避けましょう。
へたに注目
へたの切り口が新らしく、果皮と同様の鮮やかな紫色をしたがくに、さわると痛いくらい鋭いとげがあるものが採れたての証拠です。古くなるとへたの切り口は干からびて、がくのとげは鋭さを失い茶色っぽくなります。
ずしりと重いもの
見た目より軽いものは避けましょう。やはり少しずっしりとしている方が中身はきめ細やかでつまっています。
皮の薄いもの
皮は薄いものがやわらかくておいしいです。古くなると皮がかたく、ぶ厚くなります。
茄子の調理法
代表的な料理
なすは味や香りにくせがないのでどんな材料とも相性がよく、和風、中華、洋風料理と幅広く利用されています。
料理方法も、焼きなす、蒸しなす、ゆでなす、煮物、天ぷら、炒め物、おひたし、和え物、田楽、漬物、肉はさみ揚げ、素揚げ、グラタン、トマトソース煮、スパゲッティーなど、バラエティにとんでいます。
種類に合った調理法を
なすは種類が豊富で、それぞれの良さを生かした調理法をとるとよいでしょう。中長なすはどんな料理にも使えます。小丸なすや、丸なす、卵形なすなどは果肉がしまっているので漬け物に向いています。反対に長なすや大長なすは、皮がかたく果肉がやわらかいので焼きなすに合います。
上手に焼く
なすを焼くときには、焦げない程度の強火を用いるのがコツ。弱火で時間をかけると水分がどんどん出ていってしまい、うま味も一緒に逃げていってしまいます。
焼く前には、竹串などで皮のところどころに小さな穴をあけておきます。
こんがり焼いたあとは、冷水につけて冷まして皮をむき、削りかつおとしょう油でいただきましょう。旬ならではの味わいです。焼いたなすをいつまでも水につけておくと水っぽくなりますのでご注意ください。
油料理の注意
なすは油ととても相性のよい食材です。油を吸収すると味がまろやかになりコクも出ます。揚げ物にすると本来の美しい紫色が生きてきますし、炒めてみそ味で調味する鍋しぎは人気の料理ですね。
でも油を使った料理はカロリーが気になります。そこで油を必要以上に取り過ぎないコツを2点お教えしましょう。
(1)揚げる時間を短縮するために電子レンジなどで事前に加熱調理しておきます。
(2)油の量をあらかじめ決めておき、あとからつぎ足さないようにします。
黒ずむのを防ぐ・あく抜き
なすは切り口がすぐに黒ずんでくるので、切ったものからどんどん水に浸していくようにします。露地ものが出まわる夏場は特にあくが強いので塩少量を加えてあく抜きをします。
切り口が黒ずむのは、クロロゲン酸と呼ばれるポリフェノールの一種が原因で、最近では動脈硬化を防ぐ抗酸化物質と言われて注目を集めている成分なので、できるだけ水にさらす時間はひかえめにするのがよいでしょう。
天ぷらなどで高温加熱する場合には、酵素が働かず褐色にならないのであく抜きをする必要はありません。使用する直前に切るようにします。
煮物の場合は油でさっと揚げておくと、色素成分が溶け出るのを防いで、色あざやかに仕上がります。
漬け物にするコツ(色鮮やかにするには?)
なすを漬け物にするとき、鉄釘や焼きミョウバンを入れると色鮮やかになります。なすの色素はアントシアニン系のナスニンとヒアシンが主体で、アントシアニン系色素は鉄(くぎ)やアルミニウム(ミョウバン)などと反応すると色素が安定し、濃紺がより鮮明になるのです。
同様のことが炒め物をするときにも言えます。なすを炒めるときは鉄鍋を使うのがコツ。アントシアニン系色素が鉄鍋の鉄分と反応してきれいな色に仕上がります。
ぬか漬けにするときには、ぬか床や塩をなすにこすりつけてから漬けるようにします。空気にふれるとすぐに色が悪くなるので、食べる直前にぬか床から出して切るようにします。
電子レンジで調理するときの注意
電子レンジで調理する場合、そのまま入れると皮がやぶけて中身がとび出ることがあります。必ずへたとはなつきを切ってから入れてください。
美しく火が通りやすくするには
なすの皮はかたいので、茶せんや鹿の子に切り目を入れて調理するようにします。そうすると、見た目に美しいだけではなく、味がよくしみこむようになります。
茄子の保存
なすは90%以上が水分なので、薄い皮を通してどんどん水分が失われていき、しぼんでしまいます。なるべく早く使うのが基本ですが、使いきれない場合は穴をあけたポリ袋に入れてみずみずしさを保つように工夫します。
なすは高温を好む野菜です。保存の適温は15度ぐらいと言われているので、夏場以外は常温の冷暗所で保存して2日ぐらいで食べきったほうがよいでしょう。
冷蔵庫に入れる場合は、乾燥と低温を避けるためにビニール袋に入れて新聞紙でくるみ、7~10度ぐらいの野菜室で保存するようにします。1週間ぐらいはもちますが、2~3日以内に食べきる方がよいでしょう。だんだんと果肉も皮も種子もかたくなり風味が落ちてしまうからです。
なすは、5度以下の温度で保存すると低温障害をおこし、色つやが悪くなって鮮度も味も落ちてしまいます。さらにそのままおいておくと、褐変して腐ってしまいます。俗に「なすの風邪ひき」と言います。ご注意ください。
2~3日で食べきれない場合は半調理してから保存するようにします。手早く料理に使えて便利です。
- 1つ2つ残ったなすは、一口大に切ってゆで、水気を絞って冷蔵しておくと翌朝の味噌汁の具に早変わりします。
- へたを切り落として薄切りにし、塩水に10分ほどつけてしんなりとさせてから、水けをよく絞ってポリ袋や密閉容器で冷蔵庫に保存します。3~4日はおいしく食べられます。
- 薄切りにしたなすを焦げ目がつくくらい焼いて急速冷凍します。1ヶ月ぐらいはもちます。味噌汁の具や野菜炒めなどにさっと使えて重宝します。
- 丸ごとじっくり焼いたあと、水につけて皮をむき、ラップにつつんで冷凍保存します。自然解凍すると、しょうがじょう油でおいしく食べられます。もちろん味噌汁に入れたり炒めてもOK。からしであえてもおいしいです。
茄子の栄養・効能
主な成分
ほとんどが水分で95%近くを占めます。主成分は糖質で、カリウム、カルシウム、鉄、銅は比較的多く含みますが、ビタミン類はA・B1・B2・Cをごく少量含んでいるだけで多くありません。そのためもあって、栄養学上はあまり期待されてきませんでした。
最近の研究により、果皮やへたに含まれる紫色のナスニンと呼ばれるアントシアニン系色素に抗酸化作用があることがわかり注目を浴びています。
油と好相性
ふわふわしたスポンジ状の果肉が油をよく吸収するため、油を使った料理でもしつこさをあまり感じずにおいしく食べられる食材です。リノール酸やビタミンEを多く含んだ植物油で調理すれば、夏場のスタミナ補給源として効果的です。コレステロールが気になる人にもおすすめです。
動脈硬化予防・抗がん作用
「なす紺」と呼ばれる鮮やかな紫色はアントシアニン系色素の「ナスニン」によるものです。ナスニンは悪玉コレステロール値を下げて動脈硬化を予防するはたらきがあります。
また、なすにはクロロゲン酸というポリフェノールが多く含まれています。切り口が黒ずんでくるのは、この成分が空気に触れて変色するのが原因ですが、ポリフェノールは活性酸素や過酸化脂質の生成を抑えるはたらきがあります。
これらの成分のはたらきにより、なすには数ある野菜の中でも極めて強い抗がん効果があることがわかっています。また、これらの成分は加熱にも強く、油で揚げたり、煮たり、焼いたりしても効用はほとんど変わらないのも、なすの優れた特徴です。
体を冷やす
夏野菜は一般的に体を冷やす効果がありますが、特になすはその性質が強いことが、わが国や中国でよく知られてきました。のぼせ症の人や高血圧症の人は積極的に食べるとよい食材です。お酒を飲んだときに肴にすると悪酔いしないとも言われています。
逆に冷え症や婦人病、妊産婦は避けてください。「秋茄子は嫁に食わすな」ということわざは、なすが体を冷やして流産してしまうのをを避けるという意味もあると言われています。
茄子の民間療法
なすには優れた薬効があるとされて、古くから漢方や民間療法に使われてきました。その一部をここでご紹介します。
なすの黒焼き
なすをアルミホイルで包み、オーブントースターで黒くなるまで蒸し焼きにしたものをすりつぶして粉末にします。それに塩を混ぜてよく練ったもので歯ぐきをよくマッサージするようにみがくと、歯ぐきの炎症や歯槽膿漏(しそうのうろう)に効果があるとされています。また、粉末を蜂蜜で練ったものは口内炎やせき止めにもよく効きます。
なすの粉末
なすを洗い、皮をむかずに薄切りにしたものをざるに並べて天干しにします。からからに乾いたらミキサーで砕いて粉末にします。尿が出にくいときに、1日4g程度を服用すると効果があります。食中毒による腹痛にも良く効くそうです。
いぼとりに
生のまますりおろし、その汁をいぼの上にぬると効果があります。
へたの黒焼き
痔によく効くそうです。また、魚類の中毒にも効くと言われています。へたの煎じ汁は扁桃腺や虫垂炎にもよいといわれています。
湿布に
よく冷やしたものを湿布として、軽いやけどや打ち身の患部に使用すると効果があります。
茄子の歴史
原産地はインド東部のベンガル湾沿いからマレー半島にかけての地域で、有史以前から栽培されていたと言われています。
中国へは5世紀に伝わったものと見られ、「斉民要術」(405~556)にはなすの栽培や採取のことなどが書かれています。
日本に渡来したのは7世紀後半から8世紀にかけての頃と考えられています。中国の華北から朝鮮半島を経て北陸地方に広まった丸なすと、華北、華南から北九州に伝わった長なすが基本となって各地に広まりました。
日本での最古の記録は奈良時代の750年、東大寺正倉院文書に見られ、なすが献上されたことが記されています。
平安時代の「倭名類聚鈔」(923~930)には「奈須比」という名前を見つけることができます。
「延喜式」(928)では、なすの栽培のことや漬物加工のことなどが細かに書かれています。これらの文書からもわかるように、このころには既に日本の主用野菜になっていました。
室町時代になると、京都の山城や奈良の大和地方では、なすが特産品として栽培されており、江戸時代になると静岡あたりで促成栽培がはじまるようになりました。
なすはこうして古くから日本各地に普及し、土地の風土に応じた多種多様な品種が生まれました。熱帯性の植物であるにも関わらず、今やその北限は北海道にまで達しています。
茄子の豆知識
名前の由来
「なす」という呼び名の由来には諸説があります。
- 夏野菜であることからナツミ(夏の実)→ナスビ、となった。
- 「中が酸っぱい実」からなすと呼ばれるようになった。
- 中国名の茄子(チェズ)がなまった。
- どんどん実が「成りすすむ」からなすと呼ばれるようになった。
リンネが名付けた学名
「なす」の学名はSolanum melongena L.といい、植物分類を確立したリンネが付けたものです。
Solanumとはナス属という意味で、語源となったラテン語のSolamenには「鎮静」という意味があります。ナス科の植物はアルカロイドを含むものが多く、古くから薬としての効能や毒性が知られていたためです。熱帯地方などでは、ナス科の野生植物の葉を麻酔剤、種子を刺激剤として使用していたという記録もあります。
また、melongenaは、メロンという言葉が使われていることから想像できるように「瓜がなる」という意味です。たくさん実がなり様子をそのように例えたのでしょう。
卵のなる木
なすは、英語でEgg-plant、ドイツ語でEierpflanze、フランス語ではAubergineと言い、いずれも「卵のなる木」という意味を持っています。実の形が卵の形に似ていることからそのように呼ばれるようになったのだと考えられます。皆さんは「白なす」の果実が枝になっているのをご覧になったことがありますでしょうか。大きさといい、色つやといい、卵そのものです。まだ見たことのない人は、始めてご覧になったときにこの話を思い出してください。絶対うなづけると思います。
「なす」と「なすび」...どちらが本名?
東大寺正倉院文書に日本最古のなすの記述がありますが、ここではなすを「奈良比(なすび)」と記しています。平安時代の「倭名類聚鈔」でも、なすを「奈須比」と記しています。「なす」という言葉が出てくるのは、その後のことで、最初は宮中の女房言葉であったのが世間一般的な呼び名となりました。歴史から見る限りでは、本名「なすび」、通称「なす」ということのようです。
漬け物の色を鮮やかにするには
なすに含まれるアントシアニン系色素のナスニンはアルカリ性で青くなり、酸性で赤くなる性質をもっています(化学の実験などで使われるリトマス試験紙はこの性質を利用したものです)。柴漬けの鮮やかな赤は、この性質を使って強い酸性で漬けて出した色です。
また、漬け物にするとき、古くぎやミョウバンを入れると色鮮やかになるというのは昔からの知恵ですが、これはナスニンが鉄やアルミニウムと反応して金属塩が生成され、成分が安定するためです。ナスニンが安定すると、色だけでなく摂取量をも増やせるという効果があります。
縁起物
「一富士、二鷹、三茄子」という初夢に関する言い習わしもそうですが、「なす」ということばが「成す」「為す」につながることもあって、茄子は昔から縁起物として扱われてきました。
徳川家康が好物で、毎年初物が献上されていたとの記録もあります。そのころの初なすは、1個が1両もする超がつくほどの貴重品だったのです。諸大名が儀式のために買い求めたというぐらいのもので、到底庶民が食べられるものでもなく、高嶺の花の存在であったことからも縁起物扱いされたようです。
秋茄子は嫁に食わすな
このことわざは、うまい秋茄子は嫁に食わせるのは惜しいと言う姑の嫁いびりの心情をあらわしたものだ、と一般にとられています。一方、秋茄子は体を冷やすためおいしいからといって食べ過ぎると体に良くない、または秋茄子は種が少ないのでこれを食べると子種ができなくなる、といったまるっきり反対の嫁思いの意味で使われている地方もあります。まあ、どちらの意味でも秋茄子のおいしさを表現しているのには違いないようです。