山芋 – やまいも – yam
山芋(やまいも)の特徴
一般に、栽培品種を「山芋」、山に自生する自然薯(じねんじょ)を「山の芋」ということが多いようです。
日本には古くから自生し、「山うなぎ」といわれるほど、滋養強壮に良いことが知られていました。
山芋(やまいも)の旬
10月から翌4月まで収穫されますが、長いも、つくねいもは、11~12月、いちょういもは、12~翌1月が旬です。
収穫よりすこし時間をおいた年末以降のものが、水分が抜けて粘り気が強くなり、糖質も増えて美味です。
低温貯蔵による出荷調整ができるので、市場には1年中出回っています。
山芋(やまいも)の種類
山芋とは、ヤマノイモ属のつる性植物のうち、栽培作物として発達したものの総称です。世界には600種類もあり、亜熱帯から熱帯にかけて分布しています。
日本では、さつまいもやじゃがいもが無かった時代には、いもといえば、山芋をさしました。山の芋、やまといも、長いも、いちょういも、自然薯(じねんじょ)、大薯(だいしょ)などのさまざまな呼び名があり、さらに地方によって呼び名が変わるので混乱しています。例えば、やまといもと言えば、関東ではいちょういものことですが、関西ではつくねいものことです。
現在、日本で採れる山芋は、大きく分けると、長いも、大薯(だいしょ)、自然薯(じねんじょ)の3種類で、農林水産省の統計種類でも、この3種類を山芋と呼んでいます。
長芋(ながいも)
芋のかたちから、長形のものを長芋(ながいも)、平たいものを銀杏芋(いちょういも)、かたまりになったものを捏芋(つくねいも)と呼びます。
長芋(ながいも)
現在、最もポピュラーな山芋で、栽培されている山芋の約2/3がこの長いもです。水分が多く、粘りが少ないため、とろろにはあまり向きません。サクサクとした歯ざわりをいかして、山かけやあえもの、サラダなどにすると、持ち味が生きます。
銀杏芋(いちょういも)
通称:大和芋(やまといも)[関東]、仏掌芋(ぶっしょういも)、とろろいも
いちょう形、手のひら形、ばち形などありますが、いずれも扁平な形が特徴です。関東ではやまといもと呼ばれています。なめらかで粘りが強く、とろろに最適です。とろろとしてよく使われるので、とろろいもとも呼ばれて人気です。栽培はやや難しいそうです。
捏芋(つくねいも)
通称:大和芋(やまといも)[関西]
関西でよく出回る品種で、ゴツゴツとしたこぶしの形をしています。山芋の中では最も粘り気が強く、食感も濃厚です。すりおろしてとろろ汁にしたり、揚げ物にしたりしても美味しいです。もともと奈良に多く見られたことから関西ではこれを大和芋(やまといも)と呼びます。黒い皮の加賀丸いも、丹波やまのいも、白い皮の伊勢いもなどがありますが、いずれも中は白色です。土質を選び、乾燥をきらうので、栽培が難しく、産地は限られます。高級料理の食材として珍重されます。かるかんや薯蕷饅頭(じょうよまんじゅう、じょよまんじゅう)などの和菓子の原料になるのもこの種類です。
大薯(だいしょ)
熱帯産のヤムイモで、植物学的にはヤマノイモとは別種です。かたちは塊状のものや扇形、紡錘形、長形、色は灰白色や濃い赤紫色など、変化に富んでいますが、日本で栽培されているのは、塊状または紡錘形で灰白色のものが多いようです。水分が多く、ややにおいがありますが、粘り気は強く、天然の増粘剤としてアイスクリームに混ぜられることがあります。市場にはほとんど出ません。
自然薯(じねんじょ)
日本原産で山野に自生します。古くから、食用ばかりでなく、薬用としても使われてきました。旬は晩秋から冬。収穫できるまでに3~4年かかります。長さは60cm~1mと、長いもよりずっと細長く成長します。天然ものは非常に粘りが強く、味も抜群ですが、収穫に手間がかかるために流通量は少なく、まっすぐにはならないために調理にも手間取ります。最近は栽培もされていますが、収穫量はわずかです。栽培ものは、埋めたパイプの中でまっすぐに育てます。
零余子(むかご)
別名:ぬかご、いもご、いもしかご、ばちかご、肉芽(にくが)、珠芽(しゅが)
山芋の葉の付け根の部分が養分を貯えて、小指の先ほどの球状になったものです。暗褐色をしていて、そのまま食用にしたり、種芋につかったりします。10~12月頃収穫されますが、量は多くありません。蒸してそのまま食べたり、ご飯に炊きこんで、むかごご飯にしたり、塩ゆでやから揚げにするとよいでしょう。さらして乾燥させたむかご粉は、くずやかたくり粉よりも粘り強くなります。
山芋(やまいも)の加工品
薯蕷饅頭(じょうよまんじゅう、じょよまんじゅう)
高級蒸しまんじゅうで、上用まんじゅうともいいます。皮だねは、上用粉を主として、砂糖と山芋を加えて練り上げます。山芋は膨張剤の役目を果たします。
軽羹(かるかん)
鹿児島の銘菓です。すりおろした山芋に砂糖、米粉を練り合わせて蒸して作ります。小豆あんをかるかん生地で包んだ「かるかん饅頭」もあります。薩摩藩主島津斉彬候が江戸から連れ帰った菓子職人の考案と言い伝えられています。
山芋(やまいも)の選び方
表面に張りがあり、皮がなめらかで傷がなく、重みがあるものを選びます
皮つきで、できれば泥がついているものが良いでしょう。洗ったものや真空パックもので、不自然に白いものは、漂白されている可能性があるので避けた方が無難です。
長いもはずんぐりとして、細かいひげ根が多いものを、やまといもは見かけの割に重いものを、いちょういもは先端が扇状にふくらみ、うす茶色のものを選んでください。
山芋(やまいも)の調理法
長いもは、粘りが少なく、水気が多いために、せん切りや薄切り、輪切りなどにして利用します。酢の物や白煮、揚げ物、サラダ、あえものなどに。
いちょういも、つくねいも、自然薯(じねんじょ)などの粘りの強いものは、すりおろして、とろろにします。まぐろの山かけや、とろろ汁、麦とろなどに。また、魚のすり身やつくねなどのつなぎとして混ぜ合わせるとふんわりとした食感に仕上がりおいしくなります。これを煮て作られるのがはんぺんです。
皮をむいたら、あく抜きのために酢を入れた水にさらしてください。あくのために茶色に変色するのを防ぐとともに、手がかゆくなるのも防げます。
おろしてとろろにするときのポイント
目の細かいおろしがねを使うか、すり鉢ですりおろすと、舌ざわりがなめらかで、きめ細かくなります。細胞をよくつぶすことで、消化酵素のアミラーゼの働きも良くなります。
秋に出回るものは、あくが強く、すりおろすと黒ずんだりしますが、味や栄養分にはあまり影響ありません。
自然薯(じねんじょ)は、火であぶって毛を焼き取り、たわしなどでよく洗って皮をむかずにおろします。
長いもは水気が多いので、おろすとすぐに水っぽくなり、あまりとろろには向きません。それでも長いもでシャリシャリした歯ざわりのあるとろろを楽しみたい人は、おろすのではなく、薄く切った後、包丁で細かくたたいてみましょう。
とろろ汁の作り方
加熱すると消化酵素のはたらきが弱くなるので、だし汁を少し冷ましてから入れるのがこつです。
- とろろいもの皮をむき、酢水につけておきます。
- 鍋にだし(だし1.5カップ、薄口しょう油大さじ3、みりん小さじ1)を合わせて一煮立ちさせて、椀に盛り、すこし冷まします。
- 1のとろろいもの水気を取り、すり鉢でおろします。
- いも250g~300gに対して、卵1個を加えて、むらなくすりのばしたら、2の出し汁に少しずつ加えます。
- 青のりやきざみねぎ、あさつきなどを散らします。
麦とろの作り方
山芋の消化酵素が麦飯の消化を助けて、麦の欠点を補ってくれるので、栄養面でもばっちりです。少し精をつけたいときなどにどうぞ。
- とろろいもの皮をむき、酢水につけておきます。
- 米と麦は、2割増しの水加減で普通に炊きます。
- 鍋にだし(だし0.5カップ、薄口しょう油大さじ3、みりん小さじ1)を合わせて一煮立ちさせ、冷まします。
- 1のとろろいもの水気を取り、おろし金かすり鉢でおろします。
- すりおろしたいもに、3の出し汁を少しずつ加えながらのばします。
- 温かい麦飯にとろろをたっぷりかけて、青のりをふりかけたり、きざみねぎをのせたりしていただきます。
山芋(やまいも)の保存法
新聞紙に包んで、風通しのよい所や冷暗所におくと、比較的長く保存できます。
少し湿らせたおがくずや土に埋めると、更に長期保存できます。
4月になってもまだ残っていたら、新聞紙に包んで冷蔵庫で保管して下さい。また、春になって芽が出ることがありますが、すぐに芽を摘み取っておくといもが痩せません。
切ったものは切り口から水分が失われて、変色していくので、切り口にラップをして冷蔵庫で保存してください。1週間以内に使いきります。
すりおろしたものやせん切りしたものは、冷凍保存することができます。とろろは薄く延ばして冷凍すると、必要な分だけポキンと折って使えるので便利です。
山芋(やまいも)の栄養・効能
新陳代謝を活発にする
主成分は炭水化物で、でんぷん、マンナンを多く含みます。でんぷん質のものは生食での消化が悪いので、加熱して食べる事が多いのですが、山芋には炭水化物分解酵素アミラーゼが大根の数倍も含まれており、このアミラーゼがでんぷんの消化を助けてくれるので、生で食べることができるのです。麦ご飯には、不消化物の食物繊維が多いのですが、とろろをかけて麦とろにすると、かまずに飲みこんでも完全に消化してしまうほどです。
このように山芋はでんぷんを効率良く消化吸収できるので、食欲の無い時などに食べるとよいでしょう。また、胃にやさしく、胃炎を鎮めてくれるので、胃弱の人も安心して食べられます。
但し、アミラーゼは熱に弱いため、調理のときには加熱しすぎないように注意しましょう。
滋養強壮や疲労回復に
山芋のヌルヌルした粘り気のもとはムチンです。ムチンは胃壁の粘膜を保護し、たんぱく質を効率よく消化・吸収させる働きがあります。たんぱく質をしっかり吸収することで体力を補強できるので、山芋は滋養強壮や疲労回復に大きな効果があるのです。
便秘に
山芋には食物繊維が豊富な上に、カリウムも多く含まれているため、大腸ガンや高血圧の予防、また、便秘の解消にも効果があります。
糖尿病に
漢方では、山芋のことを「山薬(さんやく)」と呼び、肺や腎臓などの働きを補い、糖尿病や滋養強壮によいとされています。
山芋(やまいも)の民間療法
とろろ酒
とろろに酒を合わせてすりのばし、塩少々を加えて、火にかけます。熱燗程度になるまでかき回し、冷めないうちに飲みます。風邪などで体力が低下しているときにこれを飲むと、たまご酒よりも効果があります。
山芋(やまいも)の歴史・由来
日本では、山芋の歴史は米の歴史よりも古く、縄文時代から食べられていたそうです。
歴史書や小説にも山芋の記述は多く書き残されています。
「平家物語」に平忠盛と白河院が零余子(むかご)を手に持ちながら、祇園女御の生んだ子について語る場面があります。
江戸時代になると、儒学者で本草学者でもある貝原益軒(かいばらえきけん)の「益軒十訓」の一つ「養正訓」で、とろろで精力がつきすぎ、世の男女関係が乱れるのを心配したくだりがあるほか、井原西鶴(いはらさいかく)の「好色一代男」にも主人公の世之介が精力源としてとろろいもを利用した記述があります。
芥川竜之介の「芋粥」にも山芋が登場しました。一節を引用してみましょう。「芋粥とは山の芋を中に切込んで、それを甘葛の汁で煮た粥のことを云ふのである。当時はこれが無上の佳味として、上は万乗の君の食膳にさへ、上せられた。」
山芋(やまいも)の豆知識
切った山芋が変色しても問題なし
長いもを切ったり擦ったりして、空気に触れると酸化して褐色に変化することがありますが、食用としては何ら問題はありません。しかし、やはり料理は見た目が大事です、変色した時の料理方法としては、たたき揚げ、つみれ汁、香煎もちなど、変色が問題にならない料理に利用すると美味しくたべれます。変色を防ぐには、皮をむいたら、すぐに酢水につけておくと良いでしょう。
山芋を触ると手がかゆくなる
山芋の皮をむいたり擦ったりすると手がかゆくなる場合があります。皮を切ったり、すったりすると、皮付近に存在していたシュウ酸カルシウムの針状の結晶が壊されてバラバラになり、手や口などにささってかゆみが発生します。シュウ酸カルシウムは酸にとても弱いという性質を持っていますので、あらかじめ酢水につけてから料理するとかゆみはおこりません。また、かゆみがおこったときには、レモン汁をかゆくなっている部分につけたり、食酢を薄めたもので軽く洗い流すとかゆみがおさまります。
山芋に芽が出た場合
春先になると発芽活動が盛んになって、ほっておいた長いもから芽が出てきます。長いもはじゃがいもなどと違って新芽に害が在りませんから、芽を取れば食用として使えます。いもの中の栄養分が成長に使われてしますため、芽はできるだけ小さいうちに取り除いて調理しましょう。
収穫の工夫
長いもは細長く、収穫に手間がかかるため、いろいろな栽培法が工夫されています。近年、砂丘地帯で栽培されることが多くなってきていますが、砂で育てた長いもを、水圧で掘り取る方法や、あらかじめ埋めておいた塩化ビニールのパイプの中で芋を育て、パイプごと堀り出す方法などがあります。