秋刀魚 – さんま – Pacific saury

さんまの特徴

秋の味覚を代表する大衆魚です。脂の乗った濃厚な味に人気があり、わた(内臓)のほろ苦い味も、むしろ好んで食べられます。

塩焼きが一般的ですが、脂の乗りきったものは刺身にしても美味です。その他、かば焼きや酢のものなど調理方法は多彩です。缶詰や干しものなどの加工品もよく作られています。

体形

体長は35~40cmにまで成長します。秋刀魚という名の通り、すらりと細長い刀のような体形をしています。後ろの方に背びれ、腹びれ、尻びれがついていて、背びれと尻びれの後には小さなひれ(小離びれ)があります。

吻(ふん)と呼ばれる雌の下あごは、上あごよりも突き出ており、雄の下あごが鈍円形をしているのに比べると鋭くとがっています。背中は青黒く、腹は銀白色をしていて全体に金属のような光沢があります。

脂ののったものは、吻の先や尾っぽの付け根が黄色味を帯びてきます。

鱗(うろこ)は薄く、死ぬとはがれやすくなります。胃袋がなく腸もみじかくて、動物プランクトンを食べて育ちます。

生態

北太平洋、日本海に広く生息する外洋性の魚で数百万から数千万尾もの大群で回遊します。

寿命は約1年半、生後1年で35~40cmに成長し、数回産卵した後に死亡します。

孵化した稚魚は、春から夏にかけて北海道や千島列島沖合まで北上し、えさの動物性プランクトンをたっぷりと食べて成長します。8月中頃から南下を始め、多くは太平洋側を北海道から三陸沖へと進み、10月には房総沖に達します。この間もプランクトンを食べ続け、北海道では10%程度だった脂肪分は、10月下旬には脂質含有量が20%にも達します。その後は南下するにつれ脂肪分は落ちていきます。

冬には遠州灘、時には徳島や沖縄近海にまで達するものもあります。

主な水揚げ漁港

北海道の釧路港、宮城県の女川港、千葉県の銚子港などが多いです。

さんまの旬

さんま漁は、夏の終わりごろに千島近海から始まり、産卵のために三陸沖から房総沖に南下してくる9~10月にかけてが本格的なシーズンになります。

水揚げ高はこの頃が最も多いのですが、脂がのっておいしいのは10~11月にかけて獲れたものです。

産卵後、相模灘以南に回遊するものは、脂肪も少なく味も落ちます。

全漁獲量のうち、約4割が鮮魚として市場に出荷され、残りは冷凍にされて周年出まわります

さんまの選び方

大きさ

大型でよく太っているものものを選びましょう。

背中は青黒く光っていて黒目がはっきりと鮮やかなものが良いでしょう。

腹は銀白色にピカピカ光っているものが新鮮です。

黒目のまわりが赤く濁っていずに、澄んでいるものが新鮮なものです。冷凍ものや鮮度の落ちたものは目が赤くなっています。

背中

頭の後ろから背中にかけて厚く盛り上がっているのは、脂がのっている証拠です。

ブヨブヨしてなくてしっかり張っていて太っているものが新鮮です。鮮度は内臓から落ちて行くので見分ける基準になるのです。

尾の付け根や口の先

尾のつけ根や口の先が黄色いものは、脂が乗っていて栄養状態のいいものです。

持ってみると...

頭を持ってピンと立つぐらい張りがあるものが新鮮な証拠です。鮮度の良いものは体が死後硬直で硬くなっているためです。

「新物」と「ヒネモノ」

さんまは冷凍保存に適した魚で、旬の季節以外に売られているものはほとんどが冷凍ものを解凍したものです。これを「ヒネモノ」と呼びますが、最近の冷凍技術はたいへん優れていて、素人では「新物」と「ヒネモノ」を区別することはむずかしいことがあります。時には「新物」と「ヒネモノ」が同時に店頭に並ぶこともあるそうですが、「新物」「新さんま」などの表示がされている場合が多いので、間違えないようにしましょう。見分けがつかない場合はお店の人に聞いてみてください。

さんまの調理法

やっぱりこれ!塩焼きのポイント

さんまそのものの味を堪能するなら、やはり炭火で塩焼きが一番。そこでおいしい塩焼きを味わうためのポイントをあげてみました。

わた(内臓)はとらないで

さんまは、わたごと焼くのがポイント。わたからにじみでる旨みが全体にいきわたっておいしくなるのです。

塩をふるタイミング

塩を振るのは焼く15分前。早く振りすぎると旨みがみんな逃げてしまいます。

塩の量は1尾に小さじ1/2杯ほどが目安です。

強火の遠火で

火は「強火の遠火」が基本。強火で一気に焼くことでタンパク質がすばやく固まり旨みが逃げません。これが近火だと、火が通る前に黒焦げになってしまいます。レンガなどで網を高くするなどの工夫を。

網は石綿つきのものを

網は石こうやセラミックスが付いている焼き網を使ってください。炎がじかに触れずに放射熱状態になってむらなく焼くことができます。

焼き網は十分に焼く

焼き網はさんまを乗せる前に十分に熱してください。こうするとさんまが網にくっつきにくくなり、きれいに焼くことができます。

脂で焼かない

炭で焼く場合は、脂が落ちると炎があがりますが、焼きむらができてしまい炭火特有の遠赤外線効果が活かされません。炎はうちわであおいで消しましょう。

ひっくり返すのは一度だけ

片面が焼けてからひっくり返したほうが熱効率がよく、結果的に早く焼けます。最初に3~4分、ひっくり返して6~7分が目安です。ひっくり返すときには皮が破れないように注意しましょう。

柚子や酢だちを添えて

さんまの塩焼きには大根おろしが定番ですが、それに、ぜひ柚子や酢だち、レモンなどの柑橘類を添えましょう。内臓のくさみと苦みを消す効果があるだけでなく、がん予防にもなります。

走りのさんまに合った料理

冷凍や走りの頃のさんまは脂がのっていないので、そのまま焼くと身がぱさぱさしてあまりおいしくありません。そんなときには...

鮮度のよいものはお刺身に

ごく新鮮なものを刺身やたたきにして、生姜じょう油で食べます。

酢のものに

酢でしめて酢の物にしたり、姿寿司などに使います。塩は少し強めにします。

味の濃いかば焼きに

頭を落として三枚おろしにし、しょう油、砂糖、みりんで下味をつけます。小麦粉をつけてフライパンに油を入れて炒めた後、さんまをつけた残り汁を入れて煮つめ、さんまにからめます。

竜田揚げに

筒切りにして、みりんを合わせた生姜じょう油で下味をつけます。小麦粉をまぶしてカラっと揚げます。

有馬煮

筒切りにして、鍋に酒、しょう油、粒山椒の佃煮を入れ、落し蓋をして強火で5~6分煮こんだ後、落し蓋をとって煮汁をかけ回しながら、汁がなくなるまで煮こみます。

さんまの保存

わた(内臓)を取らないなら、鮮度のいいうちに食べるのが基本。水気をとって冷蔵庫に入れその日のうちに食べきります。

うろこ、わた(内臓)を取り除いたら、冷蔵で2日はもちます。軽く塩を振るか、酒や酢をまぶしておくと安全です。

新鮮なものなら水気を取ってラップに包みそのまま冷凍保存できます。7~10日内には食べましょう。食べるときには一気に解凍するのがコツ。

開きやみりん干しは3~4日は保存できますが、脂焼けしないうちに食べきる方が良いでしょう。

たくさん手に入ったときは素揚げにして冷凍しておくと便利。三枚におろして、何もつけずに160~170の油でからりとなるまで揚げます。冷まして冷凍用パックに入れて冷凍室へ。1ヶ月ほどはもちます。かば焼きや南蛮漬けがいつでも簡単にできて便利です。

さんまの栄養・効能

さんまはあんまいらず

昔から栄養価の高さを評して「さんまが出るとあんまがひっこむ」などと言います。これは、脂ののったたんぱく質豊富なさんまを食べることにより、体のだるさが解消され食欲が増し、あんまの世話にならずにすむという意味です。最近はこういう大衆魚を敬遠し、肉や牛乳に偏る食生活になったためにアレルギー疾患が増えてきたという指摘もあります。旬のさんまをしっかり食べて健康に役立てたいものです。

さんまの主な成分

たんぱく質や脂質のほか、ビタミン類が豊富でレチノール(ビタミンA)、ビタミンD、E、ナイアシン、B12、B2、B6などを含みます。ミネラル分では亜鉛、銅、鉄、カルシウムが豊富です。疲労回復に効果のあるタウリンも含まれています。

牛肉に匹敵する良質なたんぱく質

さんまのたんぱく質は非常に良質です。肉類に比べて消化されやすく、幼児からお年寄りまで幅広く食べることができます。たんぱく質は、体内で筋肉や臓器などの構成成分となるほか、酵素、ペプチドホルモン、神経伝達物質などになります。

旨みを左右する脂質

旬のものはたんぱく質、脂質ともに増えます。特にこの脂質の量が味のうまみを左右するといってよく、脂の乗りきる時期には全体の20%以上にもなります。

一口に脂質といっても2つの異なるタイプのものがあります。動脈硬化を起こしやすい「飽和脂肪酸」に対し、まったく逆の働きをするのが「不飽和脂肪酸」。さんまには、この「不飽和脂肪酸」が多く含まれ、中でもEPAやDHAといった注目の成分が豊富です。

☆さんまの脂は時間の経過とともにどんどん酸化され、過酸化脂質にかわっていきます。鮮度が落ちたものを食べると、じんま疹がでたり、下痢になったりすることもあるので注意しましょう。

EPAやDHAが生活習慣病を予防する

EPA(エイコサペンタエン酸)は、血小板の凝集を抑制して、血液をサラサラにするはたらきがあるので、脳卒中や動脈硬化、心筋梗塞などの予防に効果があります。EPAは体内で作られない成分なので、さんまなどの青魚から積極的に摂取する必要があります。EPAは国際的にはIPA(イコサペンタエン酸)という呼び名が一般的です。

DHA(ドコサヘキサエン酸)もEPA同様に、悪玉コレステロールを減らし、血小板の凝集を抑制したりするので、生活習慣病の予防に役立ちます。さらにDHAは、脳細胞を活発化させて、痴呆防止や学習能力、記憶能力の向上に役立つといわれて最近注目を浴びています。

骨や歯を丈夫にする

ビタミンDはカルシウムの吸収を助けて骨や歯への沈着をうながすはたらきがあります。さんまにはビタミンDが豊富に含まれ、1尾で一日に必要な摂取量の3倍もの量を含んでいます。このため、さんまは骨まで食べるとカルシウムの摂取にたいへん効果があります。

ビタミンDが不足すると、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)になったり、大人では骨軟化症、子どもではくる病になったりするので積極的にとりたい成分の一つです。

血行を促進して貧血予防に

ビタミンEは過酸化脂質を分解し、細胞膜や生体膜を活性酵素から守るので、心筋梗塞や脳梗塞の予防に役立ち、老化防止に効果があります。赤血球膜脂質の酸化も防ぐので溶血性貧血を防止します。また、血行改善に役立ち、肩こり、頭痛、痔、しもやけ、冷え症などの症状を改善させます。

また、血合いに多く含まれるレチノール(ビタミンA)やビタミンB12も貧血防止に効果があります。血合いはにがい味なので避けがちですが、鉄分も多いので、貧血が気になる人は、食べてみましょう。

B12は「赤いビタミン」とも呼ばれる水溶性のビタミンで、葉酸と協力しあって赤血球の合成を助けます。また、神経細胞のたんぱく質や脂質、核酸の合成を助けて、神経系を正常に保たせる働きもあります。

レチノールは、粘膜を健康に保つはたらきがあります。不足すると目は潤いをなくし、肌はかさつき、消化器官が損なわれ下痢になったり、かぜをひきやすくなります。

脳神経のはたらきを助け、二日酔いも予防

ナイアシンは、脳神経のはたらきを助けたり、血行をよくする作用があります。血行がよくなれば、冷え症や頭痛を改善し、食欲増進にもつながります。また、ナイアシンはアルコールやアセトアルデヒドを分解するので、悪酔いや二日酔いの予防に効果があります。

さんまの塩焼き+大根おろしで発ガン物質?

以前、食物中の亜硝酸塩とアミン類が胃の中で一緒になると、発ガン物質が生成されるということが話題になりました。大根に含まれる亜硝酸塩と、さんまの焼きこげに含まれるジメチルアミンが合わさって発ガン物質であるニトロソアミンに変化する、ということのようです。けれども、その後、この反応はビタミンCを同時に摂取することにより抑えられることがわかっています。大根おろしには、ビタミンCが豊富に含まれています。時間がたつと減少してしまいますので食べる直前におろすようにするとよいでしょう。また、酢だちやレモンなどの柑橘類の汁をたっぷりかけて食べるのも効果的です。ビタミンCの摂取ができるとともに、食欲増進にも効果があります。

さんまの歴史

食用としての歴史は以外に浅く、江戸時代になってからのことです。安永年間(1772年~)頃に「安くて長きはさんまなり」と書いて売った魚屋が現れてから庶民が食べるようになったようで、当初、武士はほとんど食べませんでした。季節感を大事にした江戸の庶民文化が育てた味といっていいでしょう。

さんま漁は、江戸時代初期に紀州熊野灘で行われたのがはじまりだと言われています。現在はほとんど和歌山でさんま漁は行われていませんが、当時は寒流がかなり南下していたので、さんま漁が紀州で盛んであったのも不思議なことではありません。和歌山県は、戦前までは全国一のさんま漁獲量をあげていました。この名残として、和歌山県新宮付近には、今でもさんまの郷土料理が有名です。

さんまの豆知識

さんまの名前について

秋の月夜に照らされたさんまは刀のように美しいという意味で「秋刀魚」と書きます。他に「秋光魚」「西刀魚」「三馬」という漢字が用いられることもあります。

秋刀魚という漢字が使われるようになったのは明治以降のこと。江戸時代にはよく「三馬」の字が当てられました。優れた栄養源であるさんまを食べると、三馬力ぐらい力がつくということを表現したものです。漱石の「我輩は猫である」の中では、「おさんの三馬を盗んで返報してやったから、胸のつかえが下りた」と、江戸時代のままに「三馬」の字が使われています。

さんまは日本各地でサイラと呼ばれているところから、学名には”saira”が用いられています。

さんまの語源

さんまの語源には諸説ありますが、定かではありません。ここでは数例をご紹介します。

★体形が細長いところから、狭真魚(せまな)と呼ばれたことから転じた。★大きな群れという意味の「沢」と魚を意味する「ま」とを結びつけて「さわんま」と呼ばれたことから「さんま」になった。

★大漁祈願の供え物とされた祭魚(さいら)から転じた。など。

地方名について

各地でのさんまの呼び名をご紹介しましょう。

★サイラ(紀伊半島など)
★サエラ(兵庫)
★バンジョ(佐渡島)
★サヨリ(富山など)
★カド(三重)
★キュウスンゴブ(東京)
★サダ(長崎)

さんま漁

かつては二隻の船で群れを取り巻く巻網漁でしたが、それが刺網漁に代わり、現在では棒受(ぼううけ)網漁と呼ばれる漁法に代わっています。これは、光に集まるさんまの性質を利用したもので、夜間に灯された集魚燈でさんまを集めて四手網に似た網を一気に引き上げ漁獲するというもの。魚をすくい獲るために傷がつきにくく、鮮度も良好に保てる方法です。明るい十五夜には、さんまが海面に散ってしまうので漁はお休みとなるそうです。

目黒のさんま

有名な落語「目黒のさんま」は江戸時代後期に生まれて、明治24年頃に禽語楼(きんごろう)小さんによって完成したものだそうです。

目黒の野に遠乗りをしたあるお殿様が、庶民にさんまをご馳走になり大変うまいと大満足。お屋敷に帰ってもその味を忘れられずに家来にさんまを所望します。ところが料理長は、脂ののり過ぎは体に悪いと思い、蒸してすっかり脂を抜いて調理してしましました。そのパサパサのさんまは夢にまで見たさんまとは似ても似つかないもの。そこで殿様、「このさんま、いずかたより取り寄せた?」「は、日本橋の魚河岸でございます。」「そ、それはいかん。さんまは目黒に限る!」と言ったそうな…。

さんまの名産地は目黒であると信じてしまったお殿様のずれた感覚を風刺した落語ですが、庶民の味だったさんまは身分の高い人の食膳には上がらなかった当時のことがよく現れているお話です。

秋刀魚の歌

さんまと言えばすぐ思い出すのは、「あわれ秋風よ 情あらば伝えてよ 男ありて、今日の夕餉(ゆうげ)に、ひとりさんまを食らひて思いにふけると。…さんま苦いか塩っぱいか…」で有名な、佐藤春夫の「秋刀魚の歌」です。大正10年の発表で、物悲しい秋風とさんまの季節感がよく溶け合い、広く愛読されました。